10月12日、シスコシステムズは2017年度の事業戦略説明会を実施した。代表取締役社長の鈴木みゆき氏は、昨年来から展開してきた国内向け施策が功を奏していることをアピールしつつ、2017年度は変革の戦略をより加速していきたいと意気込みを示した。
スモールビジネス市場開拓や製造業との共創をアピール
クラウド時代を迎え、大きな変革に乗り出しているネットワーク機器最大手のシスコ。2年目となる鈴木みゆき社長の下、「高価なエンタープライズ製品」「グローバル仕様で融通が利かない」「クラウドと対極にあるハードウェアベンダー」といった過去のイメージからの脱却を進めている。
登壇した鈴木氏は、日本の市場環境について「グローバリゼーション」「政府の成長戦略」「IoTの普及」「ダイバシティの浸透」「2020年に向かって」「ハイブリッドクラウド」「セキュリティの脅威増大」など、7つのキーワードで説明。続いて、2017年度の重点戦略である「日本市場により根ざした事業展開」「顧客のデジタルビジネス支援」「統合ソリューションビジネス強化」を掲げつつ、2016年度の取り組みを振り返った。
「日本市場により根ざした事業展開」に関しては、おもにスモールビジネス市場に展開してきた「Cisco Start」の取り組みをアピール。低廉な価格と使いやすさを訴求したCisco Startシリーズの販売パートナーは現在では国内1757社に拡大し、製造、医療分野などのユーザー事例も増加しているという。
また、「デジタルビジネス支援」に関しては、工場全体でクラウドマネージサービスを提供し、不具合予知率100%、ゼロダウンタイムを実現したFANUC、製造業のデジタル化を推進するプラットフォームをシスコと共同開発したヤマザキマザック、セキュアでインテリジェントなエネルギー業界向けのパッケージを提供する横河ソリューションサービスなどおもに製造業の事例を披露。さらに「総合ソリューションビジネス強化」に関しては、複数にまたがっていた営業体制を再編し、窓口の一本化を図ったという。
クラウドを支えるだけではなく、自らもクラウドサービスを提供
2017年度は「フルスピードで変革を」をテーマに、2016年度の重点戦略をより強力に推進していくという。鈴木氏の紹介を受け、壇上には専務執行役員の鈴木和洋氏、執行役員 最高技術責任者の濱田義之氏、副社長の井上雅雄氏の3人が上がり、重点戦略の詳細を説明した。
まず日本市場向けの製品に関しては、オンプレミス向けのCisco Startとクラウド管理型の「Cisco Meraki」に引き続き注力し、両方のニーズに対してきちんと応えていくという。また、キャリア向けルーターの開発やUC分野での提携を進めている富士通とのパートナーシップをより強固にし、業種に特化したソリューションやネットワークアーキテクチャの共同開発を進めていく。さらに60トンの機器を持ち込み、各会場をつないだというリオでのオリンピック・パラリンピックでの実績を強調し、2020年に開催される東京オリンピックのネットワーク機器スポンサーを確実に務めていくという。
続く顧客のデジタルビジネスの支援という分野に関しては、特にデジタル化の進む製造業への注力をより推進。OT(Operation Technology)とIT・IoTを融合し、工場のネットワーク化やデータ分析といったフェーズを踏みつつ、サプライチェーンの最適化、さらにはサブスクリプションモデルを見据えた新しいビジネスモデルへの移行に寄与していく。また、「Connected Society」という取り組みでは、さまざまなデジタルサービスを街単位でセキュアに提供するプラットフォームを自治体などとともに共創するという。
日本において導入が加速するクラウドに関しては、ハイブリッドクラウドの運用管理を実現すべく、さまざまな利用モデルとワークロードをサポートし、オーケストレーションと管理を提供する。そして、クラウドのインフラとなるデータセンターにおいては、インフラ管理の自動化や上位レイヤーのクラウドとの連携を実現するハイブリッドクラウドアーキテクチャを推進するという。
また、シスコ自身もさまざまなサービスをクラウド型で提供する。前述したCisco Merakiやコラボレーションを提供する「WebEx」、SIM管理を提供する「Jasper」のほか、クラウドベースのコラボレーションツールである「Cisco Spark」、DNSを用いてデバイスに対してセキュリティを提供する「OpenDNS」やクラウド上のビジネスアプリを安全に利用するための「CloudLock」などを国内でも展開していくという。
ゼタバイト時代を生き残るためのネットワークアーキテクチャ
サービスプロバイダーに向けては、より大容量でスケーラブル、高品質なネットワークアーキテクチャを提案。同社の調査では、過去40年でグローバルのIPトラフィックは1ゼタバイトに達し、今後4年で2.3ゼタバイトにまで膨れあがる。国内においても2020年には15億のデバイスが接続され、固定ブロードバンドの平均速度もグローバルの倍となる96.8Mbpsに向上する。こうした中、大容量のトラフィックをさばくのはもちろん、複雑化するオペレーションを自動化していくのも同社の役割になるという。
最後に鈴木氏は、ハードを売るという従来のモデルからサービスを提供するビジネスモデルへの移行を強調。そのためのキーイネーブラーとなるのが、オープンで柔軟なソフトウェアであると説明した。「垂直統合」のイメージの強い同社だけに、こうしたソフトウェアのオープン性をいかに業界内で認知させていくのかは今後の鍵であろう。さらに今年は金融、製造、行政、教育、流通、医療など業種ごとのソリューション開発に注力し、顧客のデジタル化を支援していくという。