NVIDIAは10月5日、ヒルトン東京お台場にて、GPU開発者向けのイベント「GPU Technolgy Conference Japan 2016」を開催。基調講演にて、同社の共同設営者、社長兼CEOのジェンスン・ファン(Jen-Hsun Huang)氏が登壇した。
AI技術の進化でやサイエンス・フィクションが現実のものに
GTCはアメリカや中国、ヨーロッパなど各地で行なわれており、今回の基調講演はすでに発表されている内容を再度日本向けに伝えるものだった。
今年のGTCのテーマは、自らを「AIコンピューティングカンパニー」と呼ぶほどに戦略分野として注力している、AI(人口知能)に関するディープラーニング技術とGPUコンピューティングだ。
1995年にPCとインターネットの時代が始まり、2005年はモバイル端末とクラウドサービスが隆盛、そして現在とこれからは「AIとIoT」の時代と位置づけている。
このAIとIoT時代を支えるディープラーニング(人工知能に必要な機械学習を実装するための手法)は20年以上研究されてきた分野だが、学習に必要なビッグデータとそれを処理するための計算能力が不足していた。そこで研究者がNVIDIAのGPUの並列計算能力とCUDA(GPU向け統合開発環境)に注目し始める。2012年ごろから、GPUを利用した様々な研究結果が出始めている。
人間の脳神経の機能をヒントにした技術の「Deep Neural Networks(DNN)」技術を用いて、2015年には画像認識で人間を超える精度を達成、音声認識では類似した発音や間投詞、マイクの雑音など“ノイズ”が多い音声での誤認率も激減した。
こうしたAIによる技術の発達により、映画「アイアンマン」で、主人公トニー・スタークが設計した人工知能「J.A.R.V.I.S」を例に出し、「もはやSF(サイエンス・フィクション)ではない」時代に到達する舞台が整っているとのこと。
2015年のGTCから、このAI技術を支えるディープラーニングにフォーカスしてきたNVIDIAだが、自身はあくまでプラットフォームの会社であり、開発者が生命線であると位置づけている。その開発者向けのイベントであるGTCは、2014年と比べると、GTCの参加者が4倍に、GPU開発者は3倍に増え40万人に、ディープラーニング開発者が25倍に増加している。
ディープラーニングの基本的なサイクルは、学習し、データを推論、インテリジェントデバイス(IoT向けデバイス)に結果を返し、またデバイスからデータを得て学習に戻る。
複雑なパターンを認識するために精度を上げるために、ムーアの法則以上のスピードで学習に必要なデータや計算量が増え続けている。
「GeForce GTX 1080」などにも採用された開発コードネーム“Pascal”GPUだが、この増え続けるデータを処理するため、つまりディープラーニング用に初めて最適化されたGPUで、Kepler世代の4年から学習速度が65倍に向上した。
“学習”の次にGPUを利用しているのが“推論処理”だ。これまでのGPUは学習向けの設計だが、推論では特殊なGPUが必要になるという。それが「Tesla P40」と「Tesla P4」だ。
P40はスループットを最大化するために設計され、CPUの40倍高速な推論処理が可能とのこと。P4は1Uサーバー用に設計され、50Wで動作する。専用の推論処理エンジン「TensorRT」も合わせて発表済みだ。これらのテクノロジーを用いたデモとして、リアルタイムに映像処理を行なう様子が観られた。会場の観客を写すカメラの映像に、ピカソふうのタッチを学び、リアルタイムに切り替えている。
NVIDIAのGPUディープラーニングを利用したAIのエコシステムは、コンシューマー向けのサービスからクラウドサービス、エンタープライズ向けに、1500以上のAI関連スタートアップ企業を含め急速に拡大している。
日本でのディープラーニングの活用例として、Preferred Networksの開発フレームワーク「Chainer」や、楽天のオンラインフリーマーケットの自動商品分類、みずほ証券の株式取引予測精度の向上、ABEJAの小売り店舗の顧客分析が紹介された。
最後のインテリジェントデバイスについては、今後AIを搭載したインテリジェントデバイスは数十億台にも上ると予想されている。クラウドに繋がったAIカメラが玄関前の人間を識別したり、AIマイクが自然な対話を実現できるようになる。
NVIDIAはインテリジェントデバイス向けに、組み込みシステム「Jetson TX1」を発表済みだ。
今回の基調講演では、産業用ロボットの日本メーカー「ファナック」と、同社のロボット制御プラットフォーム「FANUC Intelligent Edge Link and Drive System(FIELD System)」でのAIの実装において協業することを発表した。
NVIDIA GPUで構築したディープラーニングによるロボットの学習や、NVIDIA GPUが搭載されたロボットによるAIの制御を目指している。これにより、ロボット自身が作業の内容を学習し、作業ごとに個別にプログラミングをしなくてもよくなるため効率的になる。
1000兆円産業になるAI交通通産業
そして、注目が集まるオートモーティブ、自動運転に関する取り組みについて触れた。乗用車、トラック、タクシーなど交通関連産業にAIを導入することで大きな変革が起こり、1000兆円の市場規模になると予想している。
自動運手は、周囲の認識や自己位置の測定、的確な行動など複雑な計算が必要になる。NVIDIAはPascalを採用する車載人工知能エンジン「DRIVE PX 2」を用意しており、拡張性をもつアーキテクチャーなので、複数のGPUを組み合わせて処理能力を高め、一時的なオートクルーズから完全な自立運転まで実現できる。
自動運転者用オペレーティングシステム「DRIVEWORKS ALPHA 1」。会場では、どのように周囲の車や車線を認識しているか、どのように人間にその情報を返すのかの動画デモが行なわれた。
NVIDIAのAIカー「NVIDIA BB8」。人間のドライバーから学習することで、特別なプログラミングをせずとも、学習した場所とは道路や運転環境の異なる場所でも問題なく走行している様子が観られる。(関連記事)
Drive PX 2 に搭載されたParkerの後継となる、車載機器用SoC「Project Xavier(エグゼビア)」も紹介された。製造プロセス16nmの次世代GPU「Volta」を512基、70億トランジスタを搭載しており、20ワットで毎秒20兆回のディープラーニング処理が行なえるとのこと。
これまでのGTCでは一般ユーザーにもなじみがあるゲーム分野のグラフィック新技術やVR技術についての説明も多少あったが、今回はまったく触れられていない。NVIDIAの事業戦略として、AIにフォーカスすることを改めて確認できた基調講演だった。