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最新ユーザー事例探求 第43回

OpenStackを中心とした新インフラを構築、決め手は「アンダーレイネットワーク」

DeNAがベアメタルSDN「Big Cloud Fabric」を導入した背景を聞く

2016年08月25日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

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「Big Cloud Fabricしかなかった」その選択理由

 前述のとおり、新インフラのSDN基盤製品に選ばれたのはBig Switch NetworksのBCFだ。“ベアメタルSDN”を標榜するBCFは、ベアメタルスイッチにインストールするLinuxベースのネットワークOS「Switch Light OS」と、SDNコントローラーソフトウェアの組み合わせで構成される。もちろんOpenStackとも連携できる。

 ベアメタルスイッチ、つまり汎用ハードウェアを使うため、比較的安価にSDNが導入できる点がBCFの特徴となっているが、DeNAが採用したのはコスト低減が目的ではなく「他社製品では全然できないことができる」からだったという。

 「OpenStackとのインテグレーションを、オーバーレイネットワークではなくアンダーレイネットワークでサポートしていたことが大きかったです。そういう製品が、BCF以外には1つも見当たりませんでした」

 すでにオーバーレイネットワーク(仮想ネットワーク、VXLANなど)ベースのSDN製品は数多くあったが、そもそも小野氏は、新インフラでオーバーレイネットワークを選ぶ必要性は低いと考えていた。オーバーレイ化によって性能が犠牲になり、障害時の原因切り分けも難しくなる。得られるメリットとしては「4096個以上のVLANが作成できる」というものがあるが、DeNAの環境でそれだけの数が必要になるとは考えにくかった。実際、同業のWebサービス企業でも、オーバーレイネットワークを導入しているという会社はほとんど聞かない。

 その一方で、アンダーレイネットワーク(物理ネットワーク、VLAN)ならば実績があり、DeNAが必要とする環境をシンプルに実現できる。これまで蓄積してきたトラブルシューティングのノウハウも生かせるだろう。これをOpenStack経由でコントロールできるSDN製品を探した結果、BCFにたどり着いたというわけだ。

 また、BCFのSwitch Light OSがLinuxベースであることも採用理由だったという。LinuxベースのOSならばサーバーエンジニアにも馴染みがあり、トラブルシューティング作業などで直接スイッチを触るような場面が出てきても、サーバーでのノウハウが生かせる。

 「サーバーと同じLinuxベースのOSなので、たとえばトラブルシューティング時にログをLinuxコマンドでパース(解析)したり、ネットワークコンフィグをサーバーと同じChefで管理したり、といったことが可能になります」

 OpenStack上で新規のプロジェクトやネットワークを作成すると、BCF側ではそれに対応するテナントやネットワークが自動的に作成され、セキュリティグループも反映される。GUIから簡単に操作できるこの仕組みであれば、新規案件の立ち上げの際に、わざわざネットワークエンジニアに「依頼」しなくとも、サーバーエンジニアが自らネットワークを構築可能だ。

 「新インフラを使ったエンジニアはまだ少ないのですが、彼らからは、自分でネットワーク構築や設定変更ができ、『依頼』がないので楽になったと聞いています」

OpenStackとBig Cloud Fabric(BCF)の連携。OpenStack側でプロジェクトやネットワークを作成すると、自動的にBCF側で設定が行われる

 もう1つ、BCFもOpenStackもそれぞれAPIが公開されている点がメリットだと、小野氏は語る。不足する機能があれば、自ら開発することができるからだ。

 「たとえば、当社が導入したBCFのP Fabricエディションでは、OpenStackとレイヤー3の情報が共有できません(※上位エディションでは可能)。今後、開発者環境を新インフラに移行する予定ですが、数百のプロジェクト用ネットワークを手作業で設定するわけにはいきません。そこで、レイヤー3部分の連携ツールを自ら開発しました。APIを持っており、このように連携機能が容易に開発できる点は評価しています」

 この連携ツールはオープンソースソフトとしてGitHubで公開している。ツール公開で直接利益が得られるわけではないが、「BCFユーザーが増えればより良い製品になり、僕らもありがたいので」と、小野氏はその狙いを語る。

新しいITインフラでさらに「新しいことに挑戦し続ける」

 DeNAの新インフラは、まだ機能統合/連携を進めている最中だ。今年度下半期中には、仮想マシンやストレージのプロビジョニング、VLANによるネットワーク構築、Chefによるサーバー/ネットワーク設定が「一気通貫」でできるようにしたいという。

 「現在はやっと新インフラの“パーツ”が揃った段階で、エンジニアの評価も半信半疑といった感じ。この全体がしっかりインテグレーションされ、一気通貫でプロビジョニングされるようになれば、評価も大きく変わるはずです」

 小野氏は、「ITインフラに関する課題はずっと抱えてきたし、これからもなくなることはないでしょう」と述べた。新インフラの環境が整えば、次はライブマイグレーションやコンテナの活用にもチャレンジしていく方針だ。

 ビッグスイッチとは密に連携を取り、具体的なバグ修正要求や新機能リクエストを幾つも出しているという。「BCFのメジャーリリースサイクルが当初聞いていたよりも遅く、まだ反映されていないものもあるのですが(笑)、このサイクルは今後改善されると聞いています」。現場からのリクエストが、BCFの成熟度をより高めていくはずだ。

 ベンチャーとしてスタートし、「新しいことに挑戦し続けること」で常に新しいビジネスを模索し続けてきたDeNA。小野氏らインフラエンジニアの技術的な挑戦も、これからまだまだ続いていく。

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