不明中小生物としてのアナゴ
我々が食用とするマアナゴの幼体は、沖ノ鳥島はるか南の沖合からやってきて、東京湾内の沿岸に着底し変態する。と、その辺りまではわかっているらしいが、産卵を控えたメスや、肝心の卵は発見されていない。つまり卵から孵化する生物なのかどうかすら、まだ確認できていないのだ。
実は宇宙からの使者であったり、時空の裂け目からひり出てきた異次元の生物である可能性だって、今のところ100%完全に否定することはできない。つまりゴジラみたいなもの。不明中小生物。それが江戸前のあなご。しかし、ウナギのように絶滅危惧種にこそ指定されてはいないが、アナゴも数を減らしている。
江戸前のあなごが美味しいと言われるのは、羽田沖の多摩川河口の泥地には、アナゴの餌となる小魚や小海老などが豊富にいるため。しかし戦後は東京湾の埋め立てが進んで、前の東京オリンピックを控えた1962年には、地元の漁協も漁業権を放棄している。
全国的に見てもアナゴの漁獲量は減り続けていて、ここ最近の1995年から2011年にかけて、1万3千トンから5千トン前後にまで落ち込んでいる※。漁獲量の減少は漁師の高齢化が進み、世代交代していないこともあるが、個体数の減少については、温暖化による海水温の上昇とする説が有力のようだ。
では、我々アナゴを愛する人類は、どうするべきか。
※ 全国的なマアナゴ漁獲の動向と加入量調査の状況(独立行政法人 水産総合研究センター 増養殖研究所 資源生産部)参照
試食タイム
谷啓製作所の「あなごごはん」は、同じ大田区羽田の老舗魚屋「増久」で調理した煮あなごを使い、ごはんと一緒に密封した製品。増久は元漁師さんが経営するお店で、今はもう漁には出なくなったが、煮あなごの味については昔の伝統を守っているという。
缶はもちろん谷啓製作所のお家芸、フタの切り口で怪我をしない「ダブルセーフティプルトップ」を採用。開缶時にフタと缶、双方の切り口が丸くなり、不意の接触を防ぐ仕組み。プルトップ開缶時の事故が絶えないことから、社長の谷内啓二氏が長年の研究の末、世界に先駆けて開発したものだ。大田区の町工場ならではの、職人技的な先端技術である。
その缶を開けてみると、おじや状のごはんに、一口大に切られた煮穴子の入った炊き込みご飯スタイル。これは以前記事した同社の「うなぎごはん」と同じ。缶詰の性質上、ごはんと一緒にパッケージすると、このレシピになるのだろう。
で、これがまた美味しい。缶詰になっても、あなご独特の風味はしっかり残っている。非常食として食べる前提で、温めずにそのまま食べても、まったく問題ない。おじや状のごはんには賛否あるはずだが、タレが染みていてこれも美味しい。間違いなく、これはタレが美味しい。もし災害時にこれがあったら、つかの間ほっとした気分になれるはずだ。
贅沢を言えば錦糸卵とか山椒も欲しいところ。あるいは、寿司のようにガリをかじりながら食べ進めて、最後はお茶をすするとか。あなごごはんで非常食のローテーションを組むなら、お茶と岩下の新生姜もセットにしておきたいなと思った。