富士通と米オラクル、日本オラクルは、クラウド事業における新たな戦略的提携を発表した。オラクルのPaaS/SaaSサービス群を富士通の国内データセンターから提供するとともに、富士通が提供するIaaS/PaaS環境との連携も可能にする。
今回の提携では、富士通の国内データセンターに、オラクルのPaaS「Oracle Cloud Platform」やSaaS「Oracle Cloud Applications」の環境を構築。さらに、それらのクラウドサービスを、富士通のIaaS/PaaS「FUJITSU Cloud Service K5」とデータセンター内で連携させ、エンタープライズシステムで求められるクラウド環境に対応する。これにより、富士通から、日本企業やその海外拠点に対して、高性能/高信頼のクラウド環境を提供するというもの。2016年度第4四半期(2017年1月~3月)から順次、提供を開始する。
富士通データセンターから提供するオラクルSaaSの第一弾として、タレントマネジメント(人材管理)SaaSの「Oracle Human Capital Management(HCM)Cloud」を提供する。富士通ではこれを社内利用することにしており、そこで獲得した知見やノウハウを顧客へのサービス提供に生かすという。
「富士通グループとして、HCM Cloudを、タレントマネジメント領域から活用し、人事データを安全に管理。社内実績で得た知見を標準化して顧客に提供していくことができる」(富士通の香川進吾執行役員専務)
K5オプションとして、「Oracle Database Cloud Service」の提供も行う。ミッションクリティカルシステム向けのエディション「Enterprise Edition Extreme Performance」は、富士通だけが提供することになるという。これにより、ハイブリッドクラウドによる柔軟なクラウド環境を実現するとともに、K5ポータルを通じて提供するワンストップサポートの安心運用、安全性や利便性を実現できるとしている。
富士通の香川進吾執行役員専務は、国内最高水準を誇る最新鋭のデータセンターでOracle Cloudを提供し、さらにK5やホスティングサービス環境との連携も実現したことで、これまでオンプレミスで構築されてきた基幹業務システムをクラウドで利用できるようになり、顧客は「約35%の運用コスト削減」を実現できると説明した。
「また、従来からオラクルのデータべースを利用しているユーザーから、IaaS、PaaSを利用したいというニーズが高まっていた。日本では情報システムのデータベースの半分はオラクルだ。国内データセンターとワンストップサービスの提供により、安心、安全に利用でき、富士通のMetaArcとの連携による新たな付加価値を提案できる。“クラウドファースト”を求める顧客に高信頼のクラウドを提供し、ビジネス拡大に貢献する」(香川氏)
富士通の山本正已会長は、メインフレームの時代からハードウェア、ソフトウェアの両面にわたって30年以上に及ぶ両社の協業関係について説明。そして、今回の提携は昨年4月から準備を進めてきたものだと明かした。
「ラリー(=ラリー・エリソンCTO)とは、年1回、重要なテーマで話し合いを行っている。昨年4月にラリーと話をした際、『なにか新たなことをやろう』という話になり、1年をかけて準備してきた。クラウドサービスの時代には、1社だけですべてを賄うことは難しい。メーカー同士が協業し、新たなソリューションを提供して顧客のニーズに応えることが大切。今回の新たな提携を通じて、エンタープライズ領域におけるクラウド事業の強化、オラクルを利用中の顧客に対するクラウド移行ニーズへの対応が可能になる。新たな分野での新たな挑戦である。この協業に期待している」(山本氏)
会見にライブ中継で参加した米オラクルのラリー・エリソン経営執行役会長兼CTOは、「オラクルのクラウドビジネスは急成長しており、昨年度第4四半期は、前年比50%増という成長を遂げている。また、HCMにおける新規の顧客の100%がクラウドである」と前置きしたうえで、
「富士通は、日本における古いパートナーの1社であるが、今回の提携は、これまでの提携とは異なるものだ。富士通のクラウド環境でアプリケーションを活用してもらうことができる。製造、マーケティング、営業分野など、まだまだ〔クラウド活用には〕拡大の余地があり、本提携におけるこれからのステップに制約はないと考えている。従来、日本の企業では、あまりパッケージを使ってこなかったが、今後はクラウドアプリケーションを利用することになるだろう。これは、日本にとっても大きな変革になる。自社のデータセンターでカスタム化せずに、アプリを活用する時代がやってくる」(エリソン氏)
日本オラクルの杉原博茂社長は、「日本企業の生産性向上と、ビジネス価値を高めるとともに、日本が直面する課題である少子高齢化やグローバル化を解決することにもつながる。世界で活躍する日本の企業に対して、レベルの高いエンタープライズクラウドを提供することができる。この形態は“データセンター業務の委託”ではなく、新たなパートナーシップの形。新たな富士通との提携を成功させたい」と抱負を述べた。
今回の提携を通じて、富士通では、2017年度からの3年間で500億円規模の売り上げを目指すとしている。