1080の製造原価は980Tiの8割弱
GP104コアのダイサイズはおおむね314mm2とされる。GeForce GTX 1080はGeForce GTX 980 TiあるいはGeForce GTX Titan Xの後継という位置付けにある。つまりGM200コアの代替で、GM200コアの601mm2に比べると3分の2程度のダイサイズで納まっている。
もっとも原価という観点で言えば、GP204で利用した16FinFET+というプロセスは、GM200の28HPに比べるとだいぶ製造コストが高い。
製造コストとは、設計コストやマスクコストを含まない、純粋にウェハーを処理するのに必要なコストのことで、正確な数字をTSMCが公開していないので推察でしかないのだが、300mmウェハー1枚あたりの製造コストで言うと、16FF+を利用する場合は28HMに比べて50~70%増しになると聞いたことがある。
ちなみに、これをもう少し低コストで、という要望が多く、TSMCは新たに16FFCという低コスト・低消費電力のプロセスを昨年ラインナップに加えており、こちらだと30%増し程度で収まるらしい。
そうするとGP104の製造原価は、GM200の8割~9割という計算になる。実際にはGM200はさすがに歩留まりがそうは高くないはずで、一方GP104は大きいとは言え300mm2なので、GM200よりは歩留まりが高いと期待できる。
このあたりまで加味すれば製造原価は8割弱程度で収まると思うが、7割を切るのは難しいだろう。つまり案外に高コストなのである。
加えてGeForce GTX 1080ではMicronのGDDR5Xを利用しているが、こちらのチップはGDDR5と比べて割高である。
特にGDDR5Xの場合、内部でインターリーブ数をGDDR5の倍にしている関係で、容量も大きくなっているため、チップ1個あたりの価格をGDDR5と比較すると3倍弱程度の価格になるとみられている。
このあたりを加味すると、米国価格の599ドル(Founder Editionは699ドル)というのはかなりバーゲンプライスと考えていい。国内価格が円高にも関わらず10万円台というのも無理ないところである。
余談であるが、GeForce GTX 1080に関してはリファレンス基板そのままの製品が当面は主流で、オリジナル基板の製品が出てくるのは少し遅れそうだ。理由はこれまたGDDR5Xである。
筆者が推定した14Gbps品ではなく10Gbps品でのスタートとなったが、それでもなにしろ信号速度が10Gbps、それもシングルエンドのパラレルバスである。信号の引き回しに起因するほんのちょっとした波形の乱れが簡単に深刻な問題になりかねない速度である。
PCI Express Gen3が、Gen1/Gen2のエンコード方法(8b10b符号を利用)を捨てて信号速度を8GT/sに抑えたのは、やはり10Gbpsは非常に厳しいからという理由であった。ディファレンシャルのシリアルバスですら10Gbpsは厳しいと言ってるレベルなので、GDDR5Xではさらに厳しくなる。
なんでも、現時点でまともに動作するGDDR5XはNVIDIAのリファレンスデザインのみで、独自デザインにすると、いろいろと問題が出まくっているらしい。
それだけNVIDIAのリファレンスデザインが優秀ということでもあるのだが、当面は基板そのものはNVIDIAのものそのままで、クーラーや外装のみを変えたものが出てくることになると思われる。
さらに余談であるが、ある種の機器では10Gbpsという信号は十分ハンドリングできる範囲なので、技術的に難しいわけではない。問題は、こうした機器は基板そのものが誘電率の低い材質を利用していることだ。GPUカードで利用されているFR4ベースの基板と比較すると、一桁コスト以上コストが上がる場合すらある。
例えばFR4に変えてテフロン系にすれば、GDDR5Xの14Gbpsあたりまで問題なく利用できる基板を作ることは可能だ。ただし基板コストが大雑把に5倍ほど跳ね上がるので、将来はオーバークロックのハイエンドモデル限定などで、手を出すメーカーも出てくるかもしれない。
一方のGeForce GTX 1070は、GeForce GTX 980~970あたりの後継という位置付けにある。Pascal世代ではGPC(Graphics Processing Clusters:SMを10個まとめたもの)。単位での増減となる関係でか、GeForce GTX 1070はGPCが3つという構成になっている。ただダイそのものはGP104なので、単にGPCを1つ無効化しただけという形になる。
メモリーはGDDR5を引き続き利用する形になっており、このあたりでGeForce GTX 1080に比べると原価を抑えることに成功している。通常版で379ドル、Founder Editionで449ドルというのはわりと妥当な範囲の金額で、国内販売価格が6万前後というのも、これも初物と考えればやはり妥当な範疇だろう。
この連載の記事
-
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ