このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第153回

東京まで2時間が名曲生んだ、異質なバンドに必要な距離

2016年06月25日 12時00分更新

文● 四本淑三

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

くっつきそうになったら、必ずはがさなきゃ

―― では、それは置いておいて、「ペリ」ができあがるまでを教えてください。

くっちー ライブの帰りの車内で、眠くなったりしないように、いろいろと工夫してやってるんですよ。

kawauchibanri 音遊びみたいな、ね? 自分が「んちゃらんちゃんちゃ」みたいに言うから。

くっちー 「じゃ、ちょっと、これ言ってみて」みたいな。ペリはそういう言葉遊びみたいなことをしていて。

kawauchibanri そこから始まったんです。

「ペリ」のハイテンションなライブ映像(@秋葉原CLUB GOODMAN)。この日はゲストとして衆議元市議夫(レディメイド・レベル)さんがドラムで参加

―― やっぱり距離、大事じゃないですか。

くっちー そうなんです!

kawauchibanri ライブ終わった後って、良い感情も悪い感情も高ぶっているじゃないですか。それを持って家に帰るまでの数時間、スタジオに入れるようなものなんです、クルマの中って。今日対バンしたあのバンドのフレーズカッコ良かったねとか、自分たちだったらどうやれるだろうとか。その新鮮な気持ちを、時間を置かずに曲作りに持っていける。

―― 東京まで2時間という距離が、ちょうど良かったんですね。

kawauchibanri 三鷹に住んでいて、高円寺まで電車で10分、15分というような距離じゃないところが。「ペリ」は言葉遊びでできた曲ではあるんですけど、意識していないと、飲み込まれていく。自分たちの地元もそうですけど、それは怖いと思ったんですね。あらゆるものとの距離感を考えなければならない。気づいたらくっつきそうになっていた、それは必ずはがさなきゃっていう。

*

 かつてはなにかしらあったらしいローカルと都市に関する距離感も、はがさなければならない距離というのは、実は都市にもローカルにもどこにでも存在している。そうしたターゲットを見据えたうえでの視点やアプローチの変化は、今度のセカンド・アルバムでも随所に感じられる。次回インタビュー最終回は、いよいよ発売されたそのセカンド・アルバム「coreless」について。

 そして今回は、てあしくちびるを構成する10枚のアルバムを選んでもらい、コメントをいただいた。意外なものから、ああそこか! と膝を打つものまでさまざまなアルバムを挙げてもらったが、どれひとつとして彼らの音の表面にははっきりと現れていない。そこに、彼らの音楽に対する姿勢を感じ取ってほしい。

2人の共通した10枚(囲みで)

1 ゆず『ゆずマン』
ゆずの初期の作品は、2人とも中学時代によく聴いていました。kawauchiは好きな娘に気に入られようと、弾き語りでゆずのコピーをしていていました。ある意味で原点。

Image from Amazon.co.jp
ゆずマン

2 エレファントカシマシ『扉』
エレファントカシマシは全キャリアにわたって大好きなバンドで多大なる影響を受けています。特にこのアルバムの異様な緊迫感とシリアスな世界観には圧倒されます。

Image from Amazon.co.jp

3 Slapp Happy『Noom Acnalbasac』
Faustよりも先にSlapp Happyに出会いました。ダグマー・クラウゼの歌と、なんとも言えないタイム感とクタクタっとした演奏がスレスレで絡み合い本当に素晴らしいです。マイアイドル。

Image from Amazon.co.jp
Acnalbasac Noom

4 山本精一&PHEW『幸福のすみか』
凄まじい歌詞と歌声、不気味なくらいシンプルで無機的な演奏が、めちゃくちゃ暴力的でかっこいいです。激しさだけが激しさを伝える手段ではない、そんな当たり前のことを聴くたびに思い出させてくれます。

Image from Amazon.co.jp
幸福のすみか

5 FUGAZI『End Hits』
曲や演奏ももちろんですが、FUGAZIのアティテュードに多大なる影響を受けました。

Image from Amazon.co.jp
End Hits

6 Animal Collective『Feels』
グワーとしているのにお茶目ですらありつつ挑戦的に調和している曲と演奏が大好きです。てあしくちびるの初期にkawauchiがくっちーに「こういう音楽がやりたい」と手渡した作品のひとつ。

Image from Amazon.co.jp
Feels (import)

7 Vampire Weekend『Contra』
これも、てあしくちびる結成当初、kawauchiからくっちーに「こういう音楽がやりたい」と手渡した作品のひとつ。細部にわたりさまざまなエッセンスが散りばめられていながらも、全体的にあっけらかんとした印象なのは憧れます。

Image from Amazon.co.jp
Contra (Ocrd)

8 早川義夫+佐久間正英+HONZI『I LOVE HONZI バイオリニストHONZIに捧ぐ』
どんなジャンルであっても、どんなに考え方が違っていたとしても、本当に素晴らしい音楽は人の心をうつことができる、私たちがそんなことを信じていられるのは、この一枚に出会えたからかもしれません。ひたすらに素晴らしい演奏と歌。

Image from Amazon.co.jp
I LOVE HONZI

9 たま『いなくていいひと』
あらゆる点で影響を受けているたまですが、2人が一番聴いているのはこのアルバム。

Image from Amazon.co.jp
いなくていい人

10 降神『降神』
kawauchiがソロの弾き語り時代から、てあしくちびるを始動させた初期に、よく聴いていた1枚。当時、日本語hiphopに対する考え方を180度変えた。

Image from Amazon.co.jp
降神(おりがみ)

 (次回に続きます)



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン