スマートアグリカルチャー磐田(以下、SACIWATA)が、静岡県磐田市発の「産業化された農業」をめざし、美容・健康のための機能性食品「美フード」ブランドシリーズを発表。第1弾として、生で食べられるケールを、6月中旬から本格販売する。
同社は、富士通、オリックス、増田採種場の共同出資で4月1日に設立。事業会社として、スマートアグリカルチャー事業を通じた地方創生をめざす。
SACIWATA 代表取締役社長の須藤毅氏は「地元の磐田市を元気付けたい。地方創生には永続性が重要。産業として地域に根付かせるため、土着型産業である農業にあらためて着目した。決して出資の3社で進める事業ではなく、さまざまな業界・団体からも“外からの知見”を集め、“共創”の事業として展開する」と説明。
企業理念としては「磐田市発の農業改革」を挙げ、「単純に作物を作って売るだけではなく、新たな作物を研究開発し、新たなビジネスモデルを創出させる。またさまざまな事業体との共創を通じて、時代に合わせた農業現場を実現。多様な人材の育成・活躍の場となる“農業ダイバーシティ”をめざす。そうして農業ならではの情報を活用した経営モデルや、独自のバリューチェーンを確立し、新産業の創造に貢献したい」(須藤氏)とした。
単純な農業ではなく、いかに磐田発で産業化された農業を作り上げるか。それが狙いだ。
具体的な事業概要は「生産・加工事業」「種苗ライセンス事業」「インフラアウトソーシング事業」の3点。現在、大規模な事業農用地の整備を進めており、農業生産法人との連携により生産・加工・販売を順次開始する。2016年3月から約0.5ヘクタール/年間収量70トン超の土耕ケールハウスを先行展開しているが、2016年度下期より順次、トマトハウス、パプリカハウス、葉物野菜(水耕)ハウスの稼働も始める。
実際、そのスケールは目を瞠るほどだ。東名高速道路 遠州豊田PA/スマートIC南側に約8.5ヘクタールもの施設園芸に適した大規模用地を確保している。
なぜ、それほどの用地を確保できたのか。そこには磐田市のこんな思いがある。渡部修市長曰く「この場所はお茶の農家からしても一等地。簡単に今回のスキームができたわけではない。だが、ご存知の通り、一番茶の相場は下がり続け生産を取りやめた農家が増えている。リーマン・ショックの影響も大きく、製造品出荷額は2兆3400億円から、たった1年で1兆6200億円にまで減少し、7年半経過した今もほとんど立て直せていない。その頃に市長に就任した私としては、なんとか伸びしろの大きい農業で回復しようと考えた。とはいえ、規制でがんじがらめの農業。大手の資本が参入するのにも独特な規制がある中、今回、関係者の真剣さや信頼関係のおかげで、こういうスキームができた。農家の方も色々なことがあったけれど、約8.5ヘクタールという農地も確保できた。ここから世界へ、次世代型農業の拠点を実現したいと考えている」
「次世代型農業の拠点」の所以となるのが、「単純に作物を作って売るだけではなく、新たな作物を研究開発する」という種苗ライセンス事業だ。富士通の技術を活かして、研究開発施設も整備中。高い技術力を持った中堅・中小種苗会社との協力を通じて、品種改良、ライセンス開発、および収益化を目指す。
日本は品種大国ではあるが、収益化できていないのが課題だ。なんとか磐田発の品種ライセンス事業を確立し、日本の強みを活かしたい。増田採種場は、まさにそのためのパートナー企業だ。
アブラナ科(キャベツやケールなど)に強みを持つ種苗会社の増田採種場。代表取締役社長の増田寛之氏は「種苗業界には、発芽が悪いけど美味しい、病気に弱いけど機能性を持っている、そんなブリーダーが開発しても売り切れない品種がある。一生懸命品種改良しても、回転が早くて、3年で次の品種に変わってしまうこともある。そういう品種は日の目をみないといった課題があった。今回のお話をいただき、ぜひとも種子の力に栽培技術、ICT技術を掛けあわせ、今まで使い切れなかった種子をさらにパワーアップさせて1つの品種として売り出す。種苗業界でも新しい分野を切り開くというところに意義を感じた。この磐田に“農業のシリコンバレー”を作り、世界に発信できるような品種が1つでも生み出し、おいしい野菜ができるように頑張りたい」と述べている。
その第1弾となるのが、増田採種場が10年の歳月をかけて品種開発した食べやすいケール「サンバーカーニバル」を、SACIWATAが栽培し、販売する生でも食べられるケールだ。青汁などに使用される一般的なケールと異なり、葉がやわらく苦味も少ないため、生で食べられるという。
今後、最適な環境下でこのケールの生産を続け、主に関東、中部、近畿地方を中心に、全国のスーパーマーケットや外食産業などの企業に提供する。販売については、2004年より農業ビジネスを開始し、現在全国に5箇所の生産拠点を展開するオリックスが、全社の営業ネットワークを利用し拡販する。
この商流にパプリカやトマトなども順次乗せ、美容や健康を向上する機能性食品「美フード」ブランドシリーズとして展開していく予定だ。
オリックス 理事 東京営業本部 副本部長の深谷敏成氏は「日本の農業を考えると、やはり生産面の効率化、大規模な栽培による産業化が重要。一方、農家の方々が販売まではできないので、生産・販売がバラバラなのが問題となっている。そうした販売流通経路も含めて取り組んでいけるのが本プロジェクトの強み。お客さまのニーズに生産、品種改良、販売という新しいサイクルを持ち込んでやっていきたい」と述べた。
富士通、オリックス、増田採種場が共同出資したスマートアグリカルチャー磐田。この3社がコアとなり事業計画を進めるが、業種・業態を超えた企業・団体の知見を融合し、共創での事業展開を進める。その核となるのが、今後順次販売されていく「美フード」シリーズと、それら生産、販売からのニーズもフィードバックして進める種苗ライセンス事業だ。種苗を含めた、フードバリューチェーン全体を俯瞰した新たなビジネスモデルを創造し、いわば地方創生の「磐田モデル」を創出させる狙いだ。