ヤマハは6月3日、7月の発売を予定しているハイエンドスピーカー「NS-5000」を媒体関係者に公開した。昨年9月に発表された同社フラッグシップ機で、発表後も音質改善のためのチューニングを続けていた。ほぼ最終の仕上がりとなっており、東京・銀座のヤマハホールでの試聴会も実施している。
新しいナチュラルサウンドを提案する
NSは“Natural Sound”の略で、1960年代からヤマハが製品の型番に使用している。そこから約半世紀が過ぎた。「NS-5000は、新しい“ナチュラルサウンド”を提案する機種」だとヤマハミュージックジャパン 企画室 広報の安井信二氏は言う。目指したのは「自然さと一体感の追求、シームレスな音、音楽を聴いていたくなるスピーカー」であり、「エモーショナルで抜けが良く低域の再現性に優れ、じっくりと音楽を楽しむことができる“自然さ”を求めた」のだそうだ。
例えば、人の声であれば声帯から発する音を体全体で支えている感覚。ピアノであれば離れた場所まで音が届く抜けの良さ。そして再現が難しい低域のリズム感など。そして様々なジャンルのソースに対応するため、スピーカーの個性はなるべく出さず、録音された空間や使用しているエフェクターまでわかるように情報をつまびらかにするといったことが音質面での狙いだった。
NS-5000の開発に際してヤマハは、スピーカーならこの素材、あとは経験で調整するといった職人的な勘に頼る開発方法を見直した。理想とするサウンドを決め、最先端の素材を選択。最新の計測器やコンピューター解析といった現代的な方法を駆使しながら、カット&トライで製品の完成度を高めた。
超丈夫な新素材ZYLONを使用、強度はケブラーの2倍
3ウェイ3スピーカーを箱型の筐体に収める外観は、1970~80年代の国産スピーカーでよく見かけたもの。往年の銘機「NS-1000M」を思い出す人もいるかもしれないが、その見た目に反して、NS-5000が奏でる音は極めて現代的だ。このデザインは回顧的な意味合いでは決してなく、後述するように定在波を始めとしたスピーカーが抱える課題にヤマハならではの試みで取り組んだところ、近い形になったそうだ。
技術的な特徴のひとつが、振動板の素材。ZYLON”(ザイロン)という、繊維メーカーの東洋紡が開発した新素材を活用している。レーシングスーツや消防服にも用いられており、難燃性と世界一の強度がウリ。アラミド繊維(ケブラー)の約2倍の強度を持ち、計算上では直径1.5mmの繊維で920gの軽自動車を持ち上げられるほど丈夫だという。内部損失と音速の速さを両立できる理想的な素材だという。
NS-5000ではこのZYLONを、ツィーター、ミッドレンジ、ウーファーのすべてに用いた。これは世界初の試みだ。周波数特性の滑らかなつながりや音色を揃えることが狙い。最初に着手したのはミッドレンジ。人の声などを担当する、3ウェイスピーカーでは最も重要なユニット(安井氏)だ。音場が広く、バッフル面からの影響が少ないドーム型としたが、直径80mmのサイズはドーム型としてはかなり大型で、金型成型の限界だという。
続いて30mmのツィーター、300mmのウーファーを作った。クロスオーバー周波数は750Hz、4.5kHzだ。当初はZYLON HMと呼ばれる硬い繊維を利用していたが付帯音が目立った。そこでZYLON ASというより柔らかな素材としソフト系の振動板とした。ツィーターは1インチで行くというのを決めていたが、ウーファーに関してはダブルウーファーにすると少し位置が違うだけで音速などがそろいにくいということもあり300mmの1発とした。
低域・中域・高域の各ユニットの素材を揃えることで、各ユニットの音色と音速を揃えることができた。なお、ZYLON自体は金色の繊維だが、ユニットが動くとカサカサと繊維同士が擦れる音が出るため、振動板の表面にイオン化させたモネル合金を真空蒸着させている。モネル合金はニッケルと銅を組み合わせたもので経年変化に強く、500円玉などでも用いられている。表面が硬く、ブラスの華やかな音色の再現にも一役買っているとのこと。