日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第21回
情シスもメディアもクラウドコミュニティに巻き込み中
IT業界のデストロイヤー長谷川秀樹さんとJAWS DAYSで語る
2016年06月01日 15時00分更新
1%でも動かなかったらクラウドダメは情シスの悪いところ
大谷:で、そこからクラウドを部分的に導入していって……。
長谷川:部分的ちゃいます。基本的には全部です。だって、普通のWindowsやLinuxサーバーやないですか。アウトソーシング先のサーバーはだいたいWindowsベースだったんで、ベンダーに電話して、AWSに移行するので見積もり出してやーとお願いする。「えー!」とか、「うー!」とかいろんな反応あったけど、「やったことありません」という反応が共通して返ってくる。なので、「うちの金で勉強できてよかったやんけ。ありがたく思わんかい」と答えるんです。
大谷:だって動かなかったらどうするんですか?
長谷川:そんなん撤退すればええやんけ。「うまく行かなくても作業費払う」という文面を契約書に書けというベンダーもいたね。四の五の言わずに、さっさとやれと。
大谷:一昨年のAWS Summitの討論会で言ってたのはそれですね。
長谷川:そうだっけ? 本当にクラウド始めると、できない理由がベンダーからいろいろ出てくる。文字化けするからできないとか。でも、「コード直して、リコンパイルしたら、できるかもしれません」という言いよるんで、だったら早くやらんかいと。あとはPOSの端末を起動するためのマジックパケットがAWSは流せない。だから、うちはシステム側を改変し、タイマー起動にした。
大谷:AWSの小島さんが泣いて喜ぶ事例ですね。
長谷川:本当は狂う可能性のあるタイマー起動より、マジックパケットの方がいいんだけど、AWSにシステム全部移行すること考えたら、そんなのは小さい話なわけですよ。だから、POSメーカーの東芝テックさんにお願いして、タイマー起動するようにソフト書いてもらった。そうやって、あわせて行かないとダメ。1%でも動かなかったらクラウドあかんというのは、日本の情シスの悪いところやと思います。
大谷:確かに全体を考えたら、些細なことかも。
長谷川:(オンプレからクラウド移る際に)重要な機能は移行できないと困るけど、ほとんど使ってない機能なんて、捨ててもいいわけですよ。そんなの作らされるベンダーさんもだったら100億円くれとか思うでしょ。なによりテンション下がりますよね。リーズナブルないいシステムを作りたいのに、誰も使わんような帳票システム作れなんて言われたら。
プリングルスのようにクラウドサービスを入れてしまう
大谷:周りの人はどんな反応だったんですか?
長谷川:AWSには誰も興味なかった。正直、AWS入れるとか、入れないとかがたがた言ってるのって、本当に情シスだけですよ。なにかあったら、情シスの責任というのはわかるけど、基本的にはユーザーや経営層含めて「やりゃあいいじゃん。早くやりなよ」って感じ。
大谷:確かにユーザーや経営層はサーバーがどこにあろうが、関係ないですからね。
長谷川:だって、いくら東急ハンズで売るからといっても、ペットボトルケースの素材を相談されても、情シスは興味ないでしょ(笑)。確かにユーザーは画面周り気になるけど、奥で動いているサーバーがWindowsだろうが、Linuxだろうが、SQL Serverだろうが、Oracleだろうが、ユーザーや経営層は知らんがなという話ですわ。
大谷:情シスが意識しすぎということですね。
長谷川:というか、情シス以外の人はまったく気にしてない。一応、うちも投資金額の大きい案件を経営会議にかける必要があるので、事前に社長に「某静岡県のサーバーをクラウドに移そうと思うんですけど」って相談しに行ったら、「もう移ってんじゃないの?」とか、「Google使ってるんじゃないの?」とか、「お前、なんの許可取りにきたん?」とか言われる始末。「お金かかるの?」と聞かれて、「今より安くなります」と答えたら、「なんで早くやらんの」と言われます。
大谷:なるほどねえ。で、実際AWSでコストは下がったんですか?
長谷川:全然下がらへん(笑)。
大谷:えっ?クラウド導入したらコスト下がるという話はわりと鉄板だったはずですが。
長谷川:ちゃんと説明すると、HPのDL360とか普通のPCサーバーを20~30台買うじゃないですか。これを1ラック電源込みの10万円のデータセンターに突っ込むと、クラウドとコストはほぼ変わらない。
大谷:では、コストが目的じゃないんですね。
長谷川:もちろん、高価なストレージを20万円のデータセンターで使えば、けっこう安くなる。みなさんも5年換算で検証すればわかるけど、一番かかってるのはデータセンターの費用なんだよね。高いデータセンターから移すと、コストはかなり安くなるよ。でも、うちはクラウド導入でコスト上がってる。
大谷:なんででしょうねえ。
長谷川:たとえば、CDNのCloudFrontを通販サイトに導入する。こうするとコストが上がっちゃう。今まで目の前にいいサービスがあると、ついつい使っちゃうんだよね。プリングルスみたいに、どんどん食べちゃう。だから、思っていた金額より、全然払ってるね。
大谷:これが小島さんのボーナスになるのかと。
長谷川:でも、これはいいことだと思うんですよ。苦労を忘れちゃうというか。車買う時って、どこに行けるとか妄想拡がるけど、10年経つと車で行くのが当たり前になる。だから、ありがたさを忘れる。既存のCDNなんて見積もりとって、検証して、とにかく導入するの大変だけど、CloudFrontなんてボタン一発で導入できちゃう。本当にありがたさを忘れちゃうね。
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