マイクロソフトは、新たな考え方を用いたデータセンターを設置するプロジェクトをスタートさせている。それが、「Project Natick」だ。このプロジェクトでは、なんと、海底データセンターを実現しようというのだ。
金属で覆われた密閉型のデータセンターの中に、サーバーやストレージを配置し、これを海に沈め、リモートで運用監視を行なうという仕組みだ。
海底に沈められて稼働したサーバーは、約20年間の稼働を想定しており、データセンターの外装は、その間、腐食しないように加工を施す。無人での運用が前提となり、稼働が終了するまでは引き上げることはない。だが、もちろん、陸上に引き上げて、サーバーを入れ替えることもできる。
プロジェクトに参加しているメンバーたちは、データセンター構築のノウハウだけでなく、潜水艦の構造にヒントを得たり、石油会社やガス会社が持っている海上でエネルギーを創出する技術やノウハウなども活用しているという。
冷却システムが不要な上、自然エネルギーによる電源確保で運用コストを下げられる
では、海底にデータセンターを設置する目的、そしてメリットとはなんなのだろうか。
同プロジェクトのテクニカルスタッフメンバーのひとりである、米マイクロソフトリサーチのBen Cutler氏は、次のように説明する。
「水はサーバーの冷却には適しており、さらに海には、潮の満ち引きや波、あるいは風や太陽光といった自然を活用した発電が可能であるという環境が整っている。大量に電力を使用するデータセンターでは、安定的な電源の確保が必要であり、その点、海は自然エネルギーを活用した運用が可能になる」とする。
Project Natickでは、冷却システムを持たずに、海の水温だけで冷却を行なう仕組みとなっている。これも、電力消費を低減することにつながる。そして、「水の密度は空気の800倍。水の重さを利用することで、1回あたりの発電量を大きくできる」という特徴もある。
だが、海底データセンターは、密閉した環境が必要であること、さらに、規模が大きくなるほど、データセンターそのものが大きくなるため、コストがかかりそうな印象がある。
これに対して、Cutler氏は、「冷却システムが不要なこと、自然エネルギーを使った電源確保が可能であるため、運用コストを下げることができる。また、無人運用も実現できる環境を整える。データセンターそのものの筐体も、将来的にはコストダウンが図られるだろう」とする。
人口が集中している都市部に近い場所に、データセンターを設置できる
ふたつ目の理由は、人口が集中している都市部に近い場所にデータセンターを設置できるという点だ。
「世界人口の約半分が、沿岸200km以内の場所に住んでいる。海底を利用すれば、利用するユーザーと、データセンターの距離が短くて済み、遅延などの問題を解決できる」と語る。
海底という手つかずだった場所を活用できる
そして、3つ目には、海底というこれまで手つかずだった場所を活用できる点だ。
Cutler氏は、「Microsoftでは、わずか数年前に所有していたデータセンターの総サーバー台数と同じ台数のサーバーを、毎月増やしている状況にある」とする。
現在マイクロソフトは、全世界28のリージョンにデータセンターを配置しており、「データセンターに設置したサーバー台数は、AWSやGoogleを足した数を超える規模になる」とする。
日本では、東京と大阪にそれぞれデータセンターを持ち、日本リージョンを構成。このデータセンター同士が連携することによって、日本国内にデータを保持したまま、マイクロソフトのクラウドサービスを利用することができる。
「マイクロソフトのクラウドサービスは、エクサバイト単位の巨大なストレージと、何10万ものコンピューティングコアを持ち、地球全体を網羅できる。ここから、Office 365やMicrosoft Azure、Microsoft CRM Onlineといったサービスを利用できる」というわけだ。
マイクロソフトでは、こうした世界規模のデータセンター展開において、海底データセンターを加えることを想定。増え続けるデータセンターの設置場所として、海底を有力な場所と捉えている。
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