安易なペーパーレス化は発想力のなさを露呈してるだけ
ペーパーラボの開発は、2011年からスタートした。
当時、セイコーエプソンは、レーザープリンターの新規開発をやめ、インクジェットプリンターへと開発を集中した時期でもあった。「エプソンが強みを発揮できるのはインクジェットプリンター。ここで、低コストでプリントできる環境を作り上げることを目指した」とする。カラー印刷などにはコストがかかりすぎるとして、モノクロ印刷を行なう企業が多いのも事実。そうした課題を解決できるのが、インクジェットプリンターであるという判断が、投資を集中させたひとつの理由だ。
だが、プリンティングの利用では、コスト面の課題だけでなく、環境意識の高まりにあわせて、紙を使うことへの「罪悪感」が広がり、これが積極的な紙の利用の足かせになっているのも事実だ。
「紙によるコミュニケーションの利便性を感じていながらも、安心して紙を使うことができない状況にある」と碓井社長は指摘する。そうした流れがあるからこそ、ペーパーレス化といった動きが出ているともいえる。
だが、碓井社長は、次のように語る。
「紙が持つ普遍的な価値は、コミュニケーションをシンプルできる点。見やすく、理解しやすく、記憶に残りやすく、手軽に持ち運び、書き込みが可能である。その利便性の高さを認めているからこそ、ペーパーレス化と言われながらも、紙の使用量は減少しない」と前置きしながら、「私たちの生活を考えたときに、紙抜きの生活は考えられない。紙は便利で、企業の生産性をあげたり、豊かな生活を実現するために使うことができる。この便利さを後世に伝えなくてはいけないが、そのためには環境問題を抜きにして考えることはできない。紙を安心して使ってもらえる状況を作ることが、紙に関わる企業の役割である」と語る。
そうした志を持ったエプソンにとって、ペーパーレス化という選択肢は、本質的な解決にはつながらないと判断しているようだ。
「ペーパーレス化は、検索性が高まるなどのメリットがある。だが、紙の利便性をわかっていながら、なぜそこから逃げるのか。ペーパーレス化は逃げ道でしかない。
紙を使いたいという人がいっぱいいるのであれば、その人たちが安心して使えるような環境を作るのが、紙に関わっている企業の使命である。ペーパーレス化を訴えている企業は、紙を使った文化を守ることができないから、安易な方向に動こうとしたり、そこから逃げたりしているのではないか。それは、発想力のなさを露呈しているだけ。
社会のニーズに向きあったときに、紙を使わないという方向に逃げるのではなく、『紙を使うと環境に悪い』という状況をなくし、社会の仕組みを作り直す。環境にやさしい紙文化の創出をし、利便性が高い紙の文化を継承することに、正面から取り組んでいく必要がある」とする。
ペーパーラボは、紙から紙を再生することで、安心して紙を利用できる環境を作り上げ、それによって、紙の文化を次世代にまで継承することを目指すというコンセプトが根底にある。
「紙を安心して使ってもらえる世の中へと作り直すことが、我々の使命である。新しい価値を作るには、技術力も必要だが、社会のニーズを感じで、自分たちはなにをしなくてはいけないか、そのためにはどうするかという『志』が大切である。それさえあればニーズも考えられるし、シーズも考えられる。開発のプロセスで困難があっても、それを乗り越えられる」と碓井社長。
そして、「社名の由来ともなったミニプリンター『EP-101』を発売して以来、エプソンは紙と深く関わってきた。エプソンは圧倒的な低コストと低消費電力を実現したビジネスインクジェットプリンターを投入することで、紙を利用することに対する不安を解消してきたが、紙を安心して使ってもらうためには、まだできることがある。それが、紙資源から新たな価値を生み出すスマートサイクル事業であり、その第1弾がペーパーラボ。紙によるコミュニケーションを次世代に受け継ぎ、プリンティング文化を大きく発展させたい」と語る。
紙の文化を次世代に受け継ぐという高い志が、ペーパーラボ誕生の背景にある。
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