まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第52回
電子コミックのこれまでとこれから――MDC主宰・菊池健氏に聞く
ゲームにはソシャゲがあった。マンガにはいま、何がある?
2016年01月10日 12時00分更新
スマホ世代にマンガを届けるには?
―― クレジットカードを持たない世代に、新しい作品に触れてもらうという面でも、休刊相次いだ週刊・月刊マンガ誌に代わる存在=スマホ漫画誌の存在感が大きくなっています。
菊池 comicoなどですよね。ただ、そこも気になっているのは「どうマネタイズしていくのか?」です。完全無料を謳っていますから、いま行なっているグッズ販売や、「おひねり」(作家の応援におカネを払う)的なものくらいしかイメージつかなくて……(追記:インタビュー後、comicoplusがスタート。ボーンデジタルメディアの新しい課金スタイルが開始。期待しています)。
―― あとは出版ですね。今年8月に自ら出版事業(オリジナルレーベル「comico books」)を立ち上げて注目を集めています。
菊池 そうですね。わたしはいまマンガHONZのレビュワーもやっているのですが、先日マンガHONZ主催のイベントで来場者にアンケートをとったところ約75%が「マンガは紙で読む」と答えたんですね。
ITに比較的親しんでいる層でもそんな感じで、僕自身も6割くらいは紙ですから、まだまだ紙で読むという習慣を皆さん堅持しているのだと思います。
―― マンガHONZの読者の方々は、マンガのコアなファンでもあると思います。そういった人たちが今後電子マンガ、特にcomicoのようなボーンデジタルにも手を伸ばすのか?という点は気になるところです。
マンガはゲームをお手本にできるか?
―― そんななか、菊池さんは2015年10月からMDC(マンガデベロッパーズカンファレンス)をスタートさせました。それも平均して週1回開催というハイペースです。これにはどんな狙いがあるのでしょうか?
菊池 基本的な考え方として、デジタル化によってゲームや音楽などに変化が起きました。マンガはそれをなぞるように進んでいる、という認識があります。もちろんそれぞれ異なる部分もあるのですが。
デジタル化が進むなか、いままでの雑誌・単行本に依存していては、作家にもたらされる収益は減っていくだろう、という仮説の元、代わりになにで食っていけばいいのか? という問題を解決するために始めたのがMDCです。
ゲーム業界においては、国内約5000億円というソーシャルゲーム市場が生まれました。これは10年前には影も形もなかったものです。コンシューマーゲームに対してネット・スマホが現われたときに、ゲーム業界は新市場を作ることができた。クリエイターやゲーム会社もそちらに大きく軸足を移したわけです。
では、マンガはどうか? それにあたるものがあるか? というと、現在はまだありません。いま電子書籍と呼ばれているものは、新市場かといえば難しい部分があります。既刊本の電子化が主な市場と考えると、comicoのような新しいモデルのマネタイズが確立しなければ、市場が枯渇してしまう可能性があります。
―― たとえるなら、パッケージゲームが電子配信=ダウンロード形式になりました、という段階です。
菊池 消費者が楽しむ、という観点ではそれはそれでありなんですけど、ゲームはやはりネットに接続されたことで、ゲームのデザイン自体も大きく変わったわけです。では、マンガがネットに接続されたことによって、これまでのマンガが何か変わるのか? と言われれば、今のところ最適解は見えていません。
comicoにも期待しているところなのですが、私としては、圧倒的に面白いものを作ってきたマンガ業界が、ネット化によって新しい市場を生みだせる可能性があると思うのです。それが形作られるサポートをしたい。MDCの第一回で、元エブリスタの池上さんが強調し、自らも取り組んでいきたいのもまさにそういう方向です。
MDCではそのほかにも、ネット時代のキャラクター・IP展開や、マンガをネット上の広告・宣伝に活用する手法について語ってもらうといった具合に、実際に取り組んでいる方々をお招きして、参加者もマンガ関係者が中心となって、議論し、マンガが次に進むべき道を探って行きたいと考えています。
(次ページでは、「マンガの発表場所は増えたが「漫画家であり続けること」は困難になった」)
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