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ベンダー、パートナー、ユーザーで製品を育てた1990年代を追う

ヤマハルーター立ち上げの舞台裏、販売現場から見えたもの

2015年12月22日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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砂に水をまくようにネットワークが拡がった1996年

 TCP/IPを標準搭載したWindows 95が登場し、ISDNのサービスが一般化したことで、インターネットが一気に普及した1995年以降。ファイルサーバーや電子メールなどがキラーアプリケーションとなり、中小企業でもオープンなIPネットワークへの移行が進んだ。こうした中、ヤマハのルーターは飛ぶように売れた。「FAXや電話が一気に電子メールに切り替わって、WordやExcelファイルをやりとりできるようになった。そして拠点間でファイルを共有したいというニーズが盛り上がった時代でした。砂に水をまくような感じで、全部の会社にネットワークが入りますと上司に言ったことを思い出します」(谷山氏)。

 一方、発売直後の悩みは、受注台数が生産台数を大きく上回る状況だったこと。回線が来ているのにルーターがないという状況。「営業はリストを渡されて、納品に時間がかかるところに片っ端から謝りに行きました。なんとかならないかと、直接ピックアップしにきた業者もいた」と谷山氏は苦い経験を振り返る。とにかく貸出機を100台単位で持って、試用してもらい、製品のよさや安定感を実感してもらったという。

 こうして全国を回るうちに、谷山氏は1つのニーズに気がついた。NetWareのIPXのサポートだ。これからはオープンなIPネットワークだと勢い込んでいたのに、実際フタを明けてみると、一般企業ではまだまだIPXのニーズが高かったわけだ。「1996年くらいまではNetWareがつながればすぐに導入したいという声は多かった。大手コンビニチェーンでも同じコトを言われ、真剣に検討してくれるようヤマハにおねがいした」と谷山氏は語る。

 当時、その大手コンビニチェーンではフロッピーディスクでブートするタイプのIPXルーターを使っていたが、品質面で難を抱えており、買い換えを検討していたという。「最初はセンタールーター同士の接続だったんですけど、IPXでやってくれと言われました」(谷山氏)。これがきっかけで1995年にIPXに対応し、1996年には複数のISDN回線を収容できるセンタールーターのRT200iが登場。RT100iを対抗とするセンタールーターを出したことで、ヤマハルーターの本気度はユーザーに伝わるとともに、本社と支社・営業所をつなぐソリューションが実現したことになる。結果として、大手コンビニチェーンでは、センター間の接続でRT200iを採用することになる。

信頼関係があったからこそ「絶対つなぎます」と断言できた

 ここでのヤマハの実績は、6000拠点(当時)の店舗ネットワークでのRT103iの導入につながっていく。ヤマハルーターが採用されたのは、コンビニで世界初のフルIPのネットワークだったが、IPXの対応は無駄ではなかったという。「あのときヤマハがIPしかやらないと言っていたら、その後は厳しかったかもしれない。後にサポートするフレームリレーも含め、現場のニーズに柔軟に対応できたからこそ、『中小企業ネットワーク=ヤマハ』になったんだと思います」(谷山氏)。

 IPXへの対応とともに大手コンビニ案件でヤマハルーターが評価されたのは、いくら蹴っても壊れないという堅牢性だ。「長らくヤマハルーターのネットワークを作ってきましたが、ルーターが壊れて送り返されてきたことがない。プロが使うヤマハの電子楽器が壊れないのと同じように、最初から品質が高かった。驚くべき完成度だったと思います」と谷山氏は評価する。壊れない自信があるからこそ、安心してお客様に勧められる。販売を手がける立場として、なによりもありがたいことだ。2000年初期のヤマハルーターがいまだに企業内で幅広く用いられているのは、壊れない故の当然の帰結だ。

「(ヤマハルーターは)最初から品質が高かった。驚くべき完成度だったと思います」(谷山氏)

 もう1つ評価を受けたのは、谷山氏が開発した先進的な設定自動化の仕組みだ。「ISDNを使って、ホストと連動したゼロコンフィグのシステムを納入させていただきました。結局、すべてリモートで設定できたので、私は一度も店舗に行かずに済みました」(谷山氏)。3ヶ月で6000拠点の導入を完了させるというスピード感の中、このゼロコンフィグの仕組みは、まさにミッションクリティカルな存在。しかし、ヤマハと住友商事で連携し、品質の高いものに仕上げたという。「外資系ベンダーであれば、要望しても、かなうのに半年かかってしまう。その点、ヤマハは早ければ翌日にも不具合を修正してくれました。そんな関係でやっていたので、お客様に対しては『絶対つなぎます』と言っていました」と谷山氏は語る。開発元のベンダーと販売代理店の間の絶対的な信頼関係が国産ルーターの躍進につながったわけだ。

 1996年以降、ヤマハはラインナップを毎年のように拡充する。RT140はインターフェイスの違いで4種類(RT140i/RT140p/RT140e/RT140f)が用意され、ローカルルーターやATM/フレームリレーの需要にも応えられるようになった。「当初はモジュール型の製品を要望していたのですが、インターフェイスごとにモデルが出てきました。でも、結果的にはモジュールごとに注文を出すなんて面倒なことにならないでよかったです」(谷山氏)。ここでEthernetモデルをいち早く投入することで、初期のIPsecもいち早く実装でき、ADSLによるインターネットVPNの需要にもいち早く応えられたという。

(次ページ、売れた秘密はラインナップ、コミュニティ、コスト、そして音叉マーク)


 

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