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『角川インターネット講座』(全15巻)応援企画 第11回

第14巻『コンピューターがネットと出会ったら』監修者インタビュー

夢を叶えるには現実を見よ TRONプロジェクト坂村健博士かく語りき

2015年12月12日 18時00分更新

文● 盛田諒、小林久 写真●Yusuke Homma(カラリスト:芳田賢明) 編集●村山剛史/ASCII.jp

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得ようと思ったらまず与えよ

── あらためて、30年越しで考え続けてきたTRONのビジョンについて伺います。

坂村先生の手のひらに何か小さいものが……USBメモリーかなと思ったら、ucodeとBluetooth対応の無線ビーコンだった!

坂村 すべての人がネットにつながって、すべてのモノがネットにつながったら、すべてがつながることになりますよね。

 飛行機に乗ったら世界中に行けるし、歩いて大陸を横断することもできる。でも物理的な移動時間がかかる。その時間がかかるということがつながっている感覚をなくす。でも今ならインターネットがある。「つながる」が、コンピューターの未来のモデルとして常に頭の中にあった私としては今こそビジョン実現のときが来たと感じています。

── ネットの人間関係もそうですが、今後はどうつながるかが問題になりそうですね。

坂村 人間関係は複雑。つながればいいというふうにはいかないですよ。ヘタにつながったら殺されるということもありうる。「話せばわかる」なんていうのは楽観的な話で、話したら殺されるところだって世界にはたくさんある。大事なのは、いろんなつながり方があるというのを知ることですね。

先日の「2015 TRONSHOW」でucodeタグ認定が発表されたバッテリーレス・フレキシブルビーコン(最下段)。Bluetooth対応機器(アプリを入れたスマートフォンなど)を持って近づくと、受信したucodeをもとに、場所に関する説明を呼び出せる。先生が手にしていた富士通製のBLEマーカーは、太陽電池で動くほか、基板が柔らかいので設置場所の自由度が高く、天井に貼り付けておいたビーコンが仮に落ちても、深刻な怪我にならないという特徴がある

── 先日もサイバー攻撃について新聞にコラムを寄稿されていましたね。

坂村 みんないい人じゃないんですよ。人間社会だから悪いやつはいる。わたしは気づくのが遅くて『あ、こんなに悪いやつがたくさんいたんだな~』というのがあとからわかりましたけどね。

── なんだか怖い話になってきましたが……。先生はTRONのプロジェクトから一貫してオープンであることの価値を訴え続けてきていますが、つながることのメリットとデメリットも把握しないといけないということですね。

坂村 まったくその通りです。ただ、最近非常にいいのは始めることのハードルが非常に低くなったこと、そして「マッシュアップ」できるという点ですね。

 ぼくらの時代は何をするにもイチから全部自分たちで作らなければならなかった。しかし、今はオープンになっているものがたくさんある。たとえば、日本列島を縦断するような道路や鉄道をイチから作ろうとしたら膨大な時間とお金がかかります。インフラを作るというのはそういう仕事なのです。

 しかし、誰かが先に道を作ってくれていて、そこに自分の道をつなげていくことができればその苦労はだいぶ軽減できるでしょう。

 マッシュアップというのは、こういういろいろな人が作った道をつなげていくことに近い。ここまでは僕、ここから先はあなたと、様々な方向から引かれた道を1点で交わらせることができるのです。

 プロジェクトを何のためにオープンにするかといえば、他人のためではなく自分のためです。こっちがオープンにすれば向こうもオープンにする。すると、できないことができるようになる

 TRONにはエコシステムがあります。外国の政府研究所も入っていたりしますが、「TRONはオープンだからこっちもオープンにしよう」ということの積み重ねによって成り立っているプロジェクトなのです。

 すると、そこからいろんな化学反応が起きる。人が作ったものを別の人が応用することで、1人でやるよりもはるかにチャンスが広がる。これからはもっとやりやすくなりますよ。それを活かさなきゃ。

── 誰かが「情報は情報を発信する人のところに集まる」と言っていました。夢は誰かとつながることで叶える時代になったのかもしれないですね。

坂村 人間の活動はギブアンドテイクですからね、ありがとうくらい言えないとダメですよ。付き合っている彼女がいても、一方的なのはダメでしょう?

── たしかに……夢も愛も、まず与えることが大事だということですかね。

坂村 与えるものが多ければ、返ってくるものも多い。あなたの結婚生活が正しかったどうかも、30年後にわかるはずですよ。

角川インターネット講座 第14巻
『コンピューターがネットと出会ったら モノとモノがつながりあう世界へ』

 インターネットはコンピューターと不可分であり、インターネットを知るためにはコンピューターの性質を知る必要がある。すべてのモノがインターネットにつながる未来のために学ぶ、コンピューターの歴史と基礎。

坂村健 監修
『コンピューターがネットと出会ったら モノとモノがつながりあう世界へ』
目次
第1部 IoTを支える技術
序章 ネットワークにつながるとはどういうことか?……坂村健 著
第1章 IoT時代のノード……越塚登 著
第2章 IoT時代のユーザーエクスペリエンス……暦本純一 著
第3章 IoT時代のネットワーク……中尾彰宏 著

第2部 融合するコンピューターとネットワーク
第4章 ネットにつながるモノ……越塚登 著
第5章 モノとモノがつながる世界……坂村健 著

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