ジュピターショップチャンネルは通販番組の国内最大手だ。
1996年11月、日本初の生放送通販を始め、年間売上は昨年度1365億円。金融危機や東日本大地震をものともせず、創業以来18期連続増収を達成した。
電話のコール数は1日あたり約7万9000件。電話回線は自動応答をふくめて約1600回線。24時間365日、生放送で商品を売っている。掃除機や加湿清浄機などの家電を売れば、わずか1日で売上が13億円に達することもあるという。
なぜショップチャンネルは売れるのか。好業績の影には、まるでIT企業のようなデータマネジメントとテクノロジーが隠されている。同社マーチャンダイジング本部の井原正登氏に、知られざる通販番組の裏側を聞いた。
井原氏によれば、肝になるのは「ブロードキャストシステム」と呼ばれる、2秒単位でデータを更新するシステムだ。
秒単位で客の反応を把握する
担当者は番組放送中、コールセンターの人員・注文数・問い合わせ数・売上・利益などを随時データで把握する。見ているのは“秒あたり”の売上だ。重要業績評価指標(KPI)として客の反応と対照しながら番組の内容を変えている。
番組は1回あたり基本的に60分間。キャストと呼ばれる社員と、メーカーから招いたゲストの2人で構成される。キャストとゲストが何をしたら注文数が上がり、下がるのかを、行動単位でコントロールしている。
(ちなみにキャストは社員で25人ほど。元宝塚、元アナウンサーの人材などもいて、ネットで人気のキャストもちらほらいる)
たとえばプリンターなら「画質がいいから買う」なのか「パソコンがなくても使えるから買う」なのか、注文の動機を見極める。前半30分でどの行動が注文につながったかを分析し、後半の展開に生かしていく。
コールセンターに入った客の声もすぐさま番組に反映させる。たとえばコートのような商品の場合「裏地は何を使っているの?」と問い合わせがあったら、すぐスタジオに「裏地を見せて」と指示を出すこともあるという。
現在のデータだけでなく、過去のデータを見直すシステムもある。同じ商品ジャンルを販売する場合、過去のVTRと注文の伸び、当時の天気などのデータを対照しながら、番組の流れをつくっていくそうだ。
たとえば洗濯機を売るとき「白くなる」「乾燥もできる」という2つのセールスポイントがあったとする。これをどの時間、どの天気、どのタイミングで伝えればいいかというのは過去のデータによって決められるという。
こうしたデータ主義によって業界をリードしているショップチャンネルだが、収録系の通販番組にはジャパネットたかた、生放送の通販番組にはQVCのような競合がいる。ちがいの1つはバイヤーにあった。
「買いつけ」「売り方」は別担当
番組で紹介する商品を買いつけてくるのはバイヤーだ。通常はバイヤーが売上を見て価格を設定しているが、ショップチャンネルでは商品を買いつけるバイヤーと別に、売上を分析して売り方を考えるプランナーがいる。
プランナーは過去の実績から「価格をいくら下げれば売上を1億円を1億2000万円まで伸ばせる」といった判断をする。プランナーはスタジオにいる“店長”であるセールスプロデューサーと連携し、売り伸ばしをはかっていく。
買いつけにしても、競合に比べて「メーカーとの信頼関係が篤い」と胸を張る。たとえば「ジョーバ」や「ルンバ」のような新しいタイプの製品が出てきたとき、いちはやく買いつけて売りのばせた実績が評価されているという。
メーカーとの信頼関係は価格にも反映される。たとえば同社ではドライヤーを1日で2万台売る。そうした驚異的な販売実績をもとに「ほかの小売店に迷惑がかからない製品を選ぶから」と、仕入れ価格の交渉ができるのだそうだ。
ちなみにメーカーにとっては9割が女性という購買者層もメリットになるという。たとえばスマホやエアコンなど、家電量販店でアプローチがしづらい客層に向けてダイレクトに商品を説明できるのはいいチャンスというわけだ。
売上データ解析、実績にもとづく買いつけ、2つが表側の強みとすれば、裏側にあるのはコールセンターだ。
同社のコールセンターは東京と大阪の2箇所にある。座席数は東京250席、大阪110席の合計360席。ピーク帯の深夜0時にシフトを集中させながら、管理役の社員がセンター内を走りまわる24時間稼働の体制をとっている。
電話はほとんどが注文で、問い合わせは数パーセント。注文はバイト、問い合わせは社員が担当する。注力商品がある場合、問い合わせ担当の社員でも説明できるよう「勉強会」を開くことで売り逃がしを減らしているそうだ。
テレビでネットと同じことをやる
通販番組の裏側と言われて初めに浮かんだのは、小さなスタジオで入れ替わり立ち替わり、別の商品を宣伝している様子。それも間違いではないのだが、それはあくまで表側の顔にすぎないということがわかった。
通販番組の本体は、商品の仕入れから販売までをムダなくデータ単位でコントロールするマーケティングとロジスティックのテクノロジーだ。売り方や仕掛けそのものは、表側がネットであろうとテレビであろうとさほど違いがない。
井原氏は同社の売り方を「ネットのいわゆるフラッシュマーケティングをテレビでやっているようなもの」と説明していた。ネットでは200台ほどしか売れない商品が、おなじことをテレビでやれば2万台単位で売れる。
ネットはたしかに世界単位でデータを集められるが、テレビは国内でリーチできる規模がケタ違いに大きい。問題はデータをいかに収集・解析・活用するか。大手はしっかりそこを見ているのだということがよくわかる。
ちなみに同社では12月4日に「24時間オールスター家電祭2015」を放送する。昨年は目玉になる3商品だけで10億円を売り上げ、今年も同等以上を見込んでいる。舞台裏を知りながら放送を見てみるのも面白そうだ。
※お詫びと訂正:初出時、電話回線が1万6000回線としていましたが、正しくは1600回線の誤りでした。関係者のみなさまにお詫びするとともに訂正いたします。(30日)