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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第1回

リアルな肉声の魅力が再評価されるとき

電話としてのiPhoneがいずれ聴覚のVRになるかもしれない

2015年11月17日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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VoLTEが実現した音声通話の圧倒的なリアリティー

 正直、筆者も含めて多くの読者は、もはやほとんど電話を利用しないのではないだろうか?

 電話は19世紀末の発明当初、現在のラジオのような装置として利用されており、電話の発明者として知られるアレクサンダー・グラハム・ベル自身、電話の普及のための各地の講演で音楽や朗読の放送をデモンストレーションしている。加入者同士の「おしゃべり」などまったく視野に入っていない。

 その後も電話はニュース速報を聞くメディアとして、コンサートや教会のミサを疑似体験するメディアとして発達していく。現在のように加入者同士のおしゃべりが主要コンテンツになるのは、第一次世界大戦の戦勝国で中産階級が文化の主役に躍り出る1920年代以降のことだ。

 しばらく加入者同士のコミュニケーションの主役とも言える座についていたが、最近はメールが電話の代用になり、そしていまやメールすらほとんど書かないわけで、仕事の連絡もFacebookのメッセージやLINEでかなりの部分こと足りてしまう。

 もう私たちはスマホの基本機能が電話だったということをすっかり忘れ、数ある機能の一部としか考えていない。実際、各メーカーからスマホの新機種が発表されると、画面サイズはどうだとか、標準でこんなアプリが入っているとか、バッテリーの持ち時間はどうだとか、まるで電話とは関係のないことが話題にのぼる。

 ところが……である。今年の春頃に外出先でどうしても早急に連絡を取らなければいけない場面があり、仕方なく屋外で(かなり久しぶりに)電話をかけた。すると、電話に出た相手の声が従来とは比較にならないほどのレベルでクリアに聞こえ、「あれ? これ、iPhone壊れちゃったんじゃないの?」と狼狽したことがある。

 「iOS 8.3」のリリースによってNTTドコモ/au/ソフトバンク各社の「iPhone 6」が「VoLTE」という技術に対応したことが理由なのだが、もはや過去のコミュニケーション手段と思っていた電話にこれほどびっくりさせられることがあろうとは想像すらしていなかった。

 VoLTEは、これまでデータ通信だけに特化していたLTEネットワーク上で音声通話を可能にしたテクノロジーである。従って高速なデータ通信を継続的に維持しながら音声による通話も可能で、しかも、通話の周波数帯域は従来の200~3400Hzから一気に50~7000Hzにまで拡張されているため、飛躍的に音声の品質が向上している。まさに“飛躍的”という言葉がまったく大袈裟ではないくらいの驚くべき体験だった。

VoLTEについての情報が掲載されているソフトバンクのウェブページ。「Pepper」の音声による通話品質の比較もあるが、これが知人の肉声であったときの驚きは相当なインパクトである(ちなみに相手がVoLTE非対応の端末だったり、異なるキャリアとの間では高品質通話にはならない)

(次ページでは、「電話はVRだった?」)

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