株式上場を果たすも
粉飾決済がバレて倒産
このKSR-1の出荷数はそう多いわけではなかった。TOP500を見てみると、1993年6月にCaltech(カリフォルニア工科大とオークリッジ国立研究所が64cell、米陸軍研究所が256cellでそれぞれランクインしているほか、ジョージア工科大もKSR-1の32/64cell構成をそれぞれ保有していたことがわかる。ただ、これ以外にどの程度販売されたのかは不明である。
KSRはKSR-1の拡販より先に、後継となるKSR-2を1992年に発表した。こちらはチップの製造をシャープからHPに切り替え、動作周波数を2倍の40MHzに引き上げたモデルである。このKSR-2に関する資料が全然ないのだが、どうも違うのはこのプロセッサーだけで、Ring0/1などの構造はほとんど同じままだったらしい。
TOP500では、パシフィック・ノースウエスト国立研究所が1994年6月に80cellの構成をTOP500に載せているほか、ジョージア工科大も64cellのKSR-2を導入し、またKSR自身も128cell構成の結果を載せている。
さて、このあたりまでは多少エキセントリックなマシンという位置づけではあっても、あまり黒歴史的な要素はないのだが、KSRはなかなかドラスティックな結末を迎えることになった。
KSRは1993年にIPO(株式上場)を果たしたのだが、株式公開にあたり1992年~1993年の売り上げを粉飾していたことが1993年秋に発覚する。
加えて、Burkhardt氏ほか首脳部2人は、その前に自身が所有する株式を売却して多額の売却益を手にしたことも明らかになり、同社は投資家から猛烈な勢いで訴えられることになった。Burkhardt氏は当初粉飾決済そのものへの関与は否定したものの、責任を取ってKSRのCEOを辞任する。
ところが、それで話が落ち着くはずもなし。同社はALLCACHEの技術そのもののライセンス売却などで生き残りの道を模索するものの、最終的に1993年9月に営業停止。12月30日には倒産処理手続の申請を出すに至り、最終的に1994年2月に会社がなくなってしまった。
ちなみにBurkhardt氏ら首脳部は1996年、SEC(米国証券取引委員会)による処罰に合意する。Burkhardt氏に対する処罰は、インサイダー取引で取得した80万4000ドルの返却と、さらにこれに関する罰金80万4000ドル、それと民事制裁金24万2000ドルで、そのうえ今後10年間公開企業の取締役などの役職につけない、というものであった。(関連リンク)
2015年12月16日:補足
神戸大学の小柳義夫教授より、以下のご指摘をいただいた。
HPC Wireの1995年1月5日号によれば、" Waltham, Mass. -- Kendall Square Research Corp. (KSR) announced today it has filed a petition in Boston for protection under Chapter 11 of the United States Bankruptcy Code." と報じられており、最終的にChapter 11(連邦倒産法第11章、つまり倒産処理手続のこと)入りしたのは1995年1月5日では? とのことだ。
教授の資料によれば、1994年2月には(会社がなくなったのではなく)上場廃止、1994年8月に製品の製造と販売を停止、1994年9月に 倒産の危機が報じられるが人員削減でやり過ごし(HPC Wireによれば180名の従業員を50人にまで削減)、1994年末に倒産処理手続の申請を行なったとのこと。
筆者の書いた12月30日の申請は、1994年のものを1993年と取り違えていたものと思われる。
また1994年2月にはKSR1-96を京都のATR(Advanced Telecommunications Research Institute International:株式会社国際電気通信基礎技術研究所)に納入したとの情報もいただいた。
調べたところ、TOP500の1994年11月と1995年6月に、それぞれ221位/353位でランクインしており、ATRがKSRの顧客だったことは間違いないようだ。
以上、訂正してお詫びする。

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