まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第51回
不可能と思われた“中学生総獲り”を実現する“ガンダム超え”タイトル
『モンスト』アニメがTVではなくYouTubeを選んだ理由
2015年11月01日 12時00分更新
金閣寺と銀閣寺からわかる文化の話
―― 発表会では、GoogleのYouTube担当役員が登壇したことにも驚かされました。具体的にどういった協力があるのでしょうか?
木村 特に何かを優遇してもらうということはありません。ただ同じIT業界にあって、交流は盛んですね。僕らが「YouTubeでこんな事をやりたい」と伝えて、彼らはそれを検討してくれるということは時々あります。先日の発表会や、東京ゲームショウのYouTubeブースに逆に僕が呼ばれるなど、イベントにお互いを招いたりとか。
―― あとは、YouTubeと直接関連しませんが、Google Playの売上に大きく貢献しているから、とか?
木村 おカネの面よりも、彼らとしては“新しい文化を創ろう”という意気込みからと理解しています。月を蹴っ飛ばすようなアイデアを“Moon Shot”って言うらしいんですけど、僕たちの取り組み=ケタハズレのアイデアに共感してくれたのだとしたらうれしいですけどね。
―― なるほど、おカネが第一義ではないと。ただ尺は短いとはいえ、話数もおそらくかなり多くなるはずで、アニメ制作のコストとその回収という観点からはいかがですか? 最近では、進撃のバハムートが非常にリッチな作りで注目を集めたりもしています。
平澤 お寺にたとえて話しましょう。
木村 え?(笑)
イシイ だいぶ話を丸くしようとしているな(笑)。
平澤 金閣寺と銀閣寺の話です。金閣寺は1階が貴族の造りで、2階が武家の作りといわれています。でも、室町後期となって書院造りが確立した後の銀閣寺だと、それらが一体化して1つの建物になっている。
“文化が融合するにはそれくらい時間が掛かる”という例で、僕はよくこの話を出すんです。バハムート、その前に放送されたドリランドなどなど、“アプリとアニメをいかに仲良くさせるか”という命題に対して、担当者のいろんなチャレンジと結果があるわけです。アニメの世界から見ると、今回のモンストはもう少しアプリに寄り添っているのではないかと。
よく、マンガはマンガ、アニメはアニメって言います。ゲームはゲーム、アニメはアニメとも。業界の常套句ですよね。でも、今回はなるべくそれを言わないようにしようと。どうやったら、より寄り添えるか、お客さんのなかで地続きになるか、という点を追求しています。もしかすると、先行事例よりもそこにもう一歩近づいてみようという意識はあると思います。
ただベンチマークにしていたのは、それらの先行事例よりも、シンプルにお客さんの声ですね。中学生たちの声に素直に寄り添っています。
イシイ たしかに他のタイトルの名前が議論中に出てくることはほとんどなかったですね。
―― 金閣寺、銀閣寺はビックリしましたが、地続き、というのは腑に落ちます(笑)。
イシイ 何の話が始まるのかと思ったよ(笑)。
平澤 でも真面目に文化の融合って最初はそうなるんですよ。「くっつけてみた」的な。で、出来上がったものをみて、「うーん」ってなって、試行錯誤を繰り返して1つの様式に落ち着いていく、という。そうなると良いなと思っています。
アニメはスポンサーの求めに応じて商売の形を変えてきた
ビジネスのやり方が変わったのだから、作品も変わらなければ
―― 本連載としても、ずっと追いかけてきたテーマですので、期待したいと思います。最後に、今回の起点となった3DS版について読者にご紹介をいただければと思います。
木村 3DSでも4人協力のマルチプレイを楽しんでもらいたいですね。世の中がスマホ普及率100%なら良いのですが、特に低年齢層の方だとスマホを持っていなかったり、親御さんが購入を決定される際に、課金という要素を心配するケースもあると思います。まだ純粋にゲームプレイとしてのモンストに触れていただけてない方は沢山おられます。そういった人達にも、ゲーム『モンスト』を楽しんでもらいたいです。
あとは3DSというゲーム専用機ですから、腰を据えて遊んでもらえるのはないか、ということで、RPGの要素も入れています。アニメを追体験できる、そんな作りになっています。じつはアニメのストーリーと3DSはすこし違っているのですが、そこも楽しみの1つにしてほしいです。
アニメを見てアプリを楽しむ、あるいは3DS版を楽しむ、そんな選択肢をご提供できたのではないかと思います。
イシイ 3DSもアニメも作品性高いですからね! プロモーションプロモーションってばかりいうと、たしかにそこは誤解が生じそうなので(笑)。ガンダム的なモノを目指してますから。商品を売ることが目的でも、作品性は高められる、僕はそう確信しています。期待してください。
平澤 7分で面白さを感じてもらったり、“協力”という行動をアニメを起点として起こしてもらうといったゴールを定めて、アニメをスクラップ・アンド・ビルドしていく――そういった過程もこの記事の読者の皆さんには注目してもらいたいです。ぜひ感想も聞かせてください。それにあわせて形も変わるかもしれませんから。運営型ですからね(笑)。
YouTube専用のモンストアニメは
密な連携と分析を伴ったグッドウィルモデルだった
本連載で、ウィンドウモデルとともにグッドウィルモデルを紹介したことを覚えていらっしゃる方はおられるだろうか。
モンストのようなゲームアプリ連動型アニメの取り組みは、鉄腕アトムやガンダムの時代における玩具・文具・菓子で回収するモデルと本質は同じで、ある意味、原点回帰の取り組みとも言える(もちろん、ネットを共通プラットフォームとする以上、連携はより密となり、求められる分析力も非常に高いものとなるが)。
モンストが起こす変化は、どのような形をアニメの進化史に刻むことになるだろうか。期待しつつ見守りたいと思う。
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。デジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆などを行なっている。DCM修士。
主な著書に、堀正岳氏との共著『知的生産の技術とセンス 知の巨人・梅棹忠夫に学ぶ情報活用術』、コグレマサト氏との共著『LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?』(マイナビ)、『できるネットプラス inbox』(インプレス)など。
Twitterアカウントは@a_matsumoto
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