今回はCRAY編の最後として、CRAY T3D/T3Eを解説しよう。時計の針を1990年に戻す。当時CRIはレス・デイビス(Les Davis)の指揮の下でCRAY Y-MPと、これに続くCRAY C90の開発が一段落した頃合である。
ベクトル方式のシステムを販売しつつ
超並列マシン「CRAY T3D」の開発にも着手
CRAY Y-MPとCRAY C90は、当時のCRIの稼ぎ頭であって、引き続きさらに性能の高いT90や、低価格向けにSupertekの製品ラインナップをベースにしたCRAY XMS、CRAY Y-MP ELといった製品を追加していった。
だが、こうしたベクトル方式のマシンとは別に超並列方式のシステムがいろいろ登場してきたことをCRI自身も理解していたようで、1989年頃から超並列の開発を始めていたようだ。
この頃にはすでにインテルのiPSCやnCUBE、CM-1といったマシンがすでに納入され、評価結果などが出始めていた頃なので、CRIとしてもこれを無視するわけにはいかなかった。
そこでCRAYもまた、超並列システムに手を染めることになった。もっとも前述の会社との大きな違いは、この時点では超並列に全力投球するのではなく、どちらかといえば保険に近い扱いであった。
加えて言えば、CRIは超並列に関する知見をそれほど蓄えていたわけではなく、そうした知見を収集するという目的もあったのだと思われる。実際1993年に同社の出した論文によれば、超並列マシンの目的は以下のことが挙げられている。
- MIMD(Multiple-Instruction, Multiple-Data)システムの構築
- 分散型の広域メモリーシステムの実装
- 負荷の少ない同期メカニズムの構築
- 広帯域/低レイテンシーの局所/広域コミュニケーション手段の確立
- 高いI/O性能の実現
- 数千プロセッサーに至るスケーラビリティーの確保
これを見ると、商用マシンというよりは研究システムの設計の論文を読んでいる気になってくる。このように超並列構成のマシンを開発し始めたわけだが、基本構成は下図のような3次元トーラス構造である。
3次元構造にProcessing Element(PE) Nodeを配し、この間を最大6本のネットワークで接続して1つのシステムを構築する形だ。
またそのシステムには1つ、I/Oゲートウェイ兼ホストブリッジも用意され、ここで外部との接続を担う形になっている。おもしろいのは、Z軸方向に関しては2つ分しか接続を想定していなかったことだ。
CRAY T3Dは1つのキャビネットあたり最大256PE Nodesの構成が可能(これを超える場合はマルチキャビネット構成になる)とされているが、この場合でもZ軸方向は2ノードのみとなっており、X/Y/Zが16/8/2といった組み合わせになったらしい。
どうしてZ軸方向が2ノードに限られるのかに関しては、文献を漁ってみたが明確な回答は見つからなかった(ただしなんとなく理解はできるので後述する)。リンクそのものは16bit幅の双方向で、転送速度はプロセッサーと同じ150MHzに設定され、片方向あたり300MB/秒の帯域となっていた。
→次のページヘ続く (性能が出ればCPUはなんでもいい!)
この連載の記事
-
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第790回
PC
AI推論用アクセラレーターを搭載するIBMのTelum II Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第789回
PC
切り捨てられた部門が再始動して作り上げたAmpereOne Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ