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テレビの音響体験を実用的に変える

ネットで注目のソニーのテレビスピーカーに圧倒的な家電感を見た

2015年09月20日 12時00分更新

文● 四本淑三、撮影●篠原孝志(パシャ)

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 お手元テレビスピーカー「SRS-LSR100」は、ソニーが作ったテレビ用リモコン一体型ワイヤレススピーカーです。

 一部ネット関係者の間では、薄型テレビの音質やお年寄りの聴力についておそらく認識がないフランス人ライターの記事と、その翻訳を掲載した日本国内向けの媒体によって知られることになった製品です。

 あ、別に同業者をディスっているわけではありませんので、そのへんよろしくご理解ください。

 なによりそれを契機に「コレうちにも欲しい」「実家の親に買って送ってやろう」などいう、親不孝者どもの声が私の身の回りからも聞こえ始めてきており、私自身が身近に感じている問題も解決しそうな勢いです。

 価格は直販で2万1470円。そんなに安い買い物でもありません。では、親不孝者が思わず買ってしまう理由は何なのか。

薄型テレビは人の声が聞き取りにくい

 たとえば、うちの階下の老夫婦もそうなのですが、時折テレビの音声が爆音で鳴っているわけです。なんだろうと聞き耳を立ててみると、古舘伊知郎が必死になにかを訴えている。時間的に言って報道ステーションでしょう。

 最初のうちは、そんなに古舘伊知郎が好きなのか、なら仕方ないけど。くらいに思っていたのですが、時折、近隣住民と思われる「るっせーんだよ!」という、金色の髪の毛から湯気が立っていそうな(表現はイメージです)お姉さんの怒声まで聞こえてきたりして、放っておくと傷害致死に発展しそうな勢いです。つまり、私が身近に感じている問題とは、そういうことです。

 Q: では、なぜ、このような現象が起きるのでしょうか?
 A: 薄型テレビのスピーカーは目立たないことが正義だからです

 みなさんもお気付きかもしれませんが、正面にスピーカーが付いているテレビは、近頃とんと見ません。ではどこについているかというと、下向き、あるいは裏側に付いていたりします。そんなバカなとお思いでしょうが、家電製品売り場に行ってみるといいでしょう。

 ユーザーが観たいのは画面であって枠ではないわけです。それでベセルはどんどん細くなる。そしていつしか巨大タブレットのようなデザインになってゆき、スピーカーは正面切って存在できなくなったわけです。

SRS-LSR100と同時にお借りしたBRAVIA(KDL-24W600A)のスピーカーも下向きにマウントされていました

 ところがそんなユーザーのニーズとは関係なく、音には指向性というものがあり、周波数の高い成分ほど直進しやすい傾向にあります。よってスピーカーが下を向いたりしますと、高域の成分が人の耳までいい感じに到達しません。

 高域の成分がいい感じで聞こえないと、言葉がはっきり聞き分けられなくなります。人の聴覚は、フォルマントと呼ばれる複数の倍音成分の分布パターン、およびその遷移を感知して、音を言葉として認識します。ゆえに、この倍音成分が正しい比率で聞こえないと、ふがふが言ってるだけ、みたいなことになるわけです。こうしたスピーカー出力にいくら補正をかけても、そもそも物の理に逆らうことはできないので、本質的な解決には至りません。

 加齢によって聴覚の感度は高域側から落ちてきますので、お年寄りになるほど言葉として認識するのが厳しくなってくる。で、聞き取れないものだから、ボリュームを上げる。すると低域の音量も一緒に上がります。

 問題なのは、音は周波数が低くなるほど周囲に満遍なく拡散し、かつ壁や床を通して伝わりやすくなるものということです。その結果として家族一同近隣住民含めて大迷惑、最終的には……、ということになるわけです。

 だったらスピーカーを正面に向ければいいじゃないか。いやいや、いっそ外付けにしてしまえ、というのが合理的な解決法です。ところがこれは見栄えの悪さ、価格の上昇といった、商売上不利な要素を抱えることになります。ゆえに、音に問題を抱えているのは承知しつつ、内蔵スピーカーはユーザーにそっぽを向いたまま、という状態が続いているわけです。

(次ページでは、「SRS-LSR100は家電製品のいさぎよさを持つ」)

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