スマホそのものでは
新製品を買う動機付けはできない?
人々はスマートフォンに何を求めるべきなのか。これはなかなか難しい問題です。プロセッサの高速化、画面の拡大など、先にAndroid陣営が先にぶつかっていた壁を、iPhoneユーザーも体験することになりました。
Appleを含む各メーカー、ユーザーや開発者も含めて、確固たる答えを見つけていないのではないでしょうか。使っている人々の多様化というよりは、前述の通り進化が一段落したことによる方向感のなさを感じているのです。しかしそのことを予見し、既に対策を講じているのも、ほかならぬAppleです。
確かにApple Watchのようなウェアラブルデバイスや、IoTなど他のデバイスとの連携は、スマートフォンの活用範囲やシーンを広めてくれます。CarPlayがワイヤレスに対応するiOS 9では、クルマもスマートな連携先として含まれます。
Android WearはiOS向けアプリをリリースし、iPhoneとAndroid Wear搭載スマートウォッチの連携をスタートさせました。しかしながら、Appleは、Apple MusicやiCloudこそAndroidユーザーにも利用できるよう準備していますが、Apple WatchはiPhoneとしか連携することはないでしょう。
Apple Watchの需要は堅調と言ったところですが、Apple Watchを使いたいのでiPhoneを選ぶというユーザーも、2015年のホリデーシーズンには出始めるかもしれません。
スマートホーム分野は立ち上がりが緩やかですが、一度iPhoneと連携する仕組みを導入すれば、その家に住んでいたり、設備を刷新しない限りは、iPhoneを購入し続けるでしょう。
クルマについても、CarPlay対応の新車を買ったら、そのクルマの方がiPhone買い換えの2年サイクルよりもロングライフになるはずで、車を買い換えるまではiPhoneを選び続けるはずです。
iPhoneへの無期待性を打破するものとは?
iPhoneそのもののブランドや商品力は、画面の拡大で一気に高まり、Androidのハイエンドスマートフォン市場を崩壊寸前に追い込んでいます。しかしそのAppleは、iPhoneそのものではない部分に、「iPhoneを買う動機」を求めています。
iPhoneの地位が確固たるものであっても、それだけでiPhoneを選ぶ理由を維持することが難しいという見通しが背後にあるのではないか、と筆者は考えています。
筆者は、将来において、Apple Watchのようなサイズのデバイスが、モバイル通信につながり、周辺のデバイスとの連携のハブになると考えています。1日以上持続するバッテリー、64ビットプロセッサ、充分なストレージを備え、4Kのビデオストリームもできるようになるでしょう。
いわば、iPhoneとApple Watchの主従関係の交代です。
しかしそうなると、人々は必ずしもiPhoneの画面サイズにこだわる必要がなくなります。iPhoneよりもむしろiPadのような大きめのディスプレーの方が重要になったり、開けばiPhone 6 2枚分の画面サイズが得られるような折りたたみ型デバイスも登場するかもしれません。
小型化と省電力化という技術障壁はありますが、そうした未来が簡単に想起できるほど、Apple WatchとiPhoneはスムーズに連携し、片方のデバイスの負担を軽減してくれていると感じています。
iPhoneに対する期待が薄れていく一方で、iPhoneを核とした様々なデバイスとの連携について、新たなシーンを見せてくれるかどうか、注目したいと思います。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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