同じスペックの大量生産ではなく1台ずつ仕様の異なる製品を
2つめには、過去10年の間に、デジタル家電やIT機器に関する国内生産拠点が大幅に減少していることに加え、「黒物」と言われる領域において、1台ずつ異なる仕様の製品を生産するという柔軟性を持った拠点であるという点への関心だ。
「黒物では、仕様が異なる製品は作れないのではという前提がある。だが、島根富士通では、1台ずつ異なる製品を製造できる。ここに関心が集まっている」と宇佐美社長は語る。
異なるCPUや、ハードディスクの容量、メモリの容量の違いのほか、企業ユーザーでは、社内で利用する独自のアプリをあらかじめ設定したり、場合によって社員ごとに異なる設定を個別に行いたいというニーズがある。これは、導入現場における情報システム部門の工数を極力減らすためのニーズでもある。島根富士通では、これらの設定についても、生産ライン上で、セキュリティ環境を維持しながら個別にインストールすることができる。
さらに島根富士通では、PCとタブレットの混流ラインを構築しており、需要の増減にあわせて生産する品目を柔軟に変更することができる。現在、稼働しているラインの半分でノートPCとタブレットを混流させた生産が可能だ。
また、デスクトップPCを生産する富士通アイソテックと、事業継続において協力体制を敷いており、実際に、東日本大震災が発生した際には、島根富士通でデスクトップPCの生産を行った経緯がある。デスクトップPCの生産も可能な柔軟性も持っているわけだ。
工場としての役割、ショールームとしての役割
そして、3つめには、富士通のモノづくり支援サービス「ものづくり革新隊」のショールームとしての役割を担っている点だ。
富士通のものづくり革新隊では、富士通が持つ長年の製造ノウハウやツール、人材を活用し、モノづくりのすべての領域において、総合的支援を行うサービス。島根富士通では、富士通グループが提供している3次元データを用いた製品シミュレーション「VPS」や、作業現場をシミュレーションし、効率的な生産ラインを構築するための「GP4」などを採用しており、これを実際に見ることができる。
かつては、アジアの生産拠点とコスト競争力の差が関心を集めていたが、ここにきて円安の影響による国内生産の優位性への関心が高るほか、アジアにおける人件費の高騰なども影響し、コスト競争力への関心はいまではほとんどないといえる。そうしたなかで、付加価値を切り札により競争力を持った生産体制を実現するために、島根富士通が注目を集めているというわけだ。
Windows 10のインストールは従来の1.2倍の長さ
島根富士通では、9月以降、Windows 10を搭載したノートPCの生産にも取り組む予定であり、Windows 10では、1.2倍ほど時間がかかるOSのインストール作業においても生産ラインの工夫によって、ライン長を延長せずに生産するといった体制づくりに取り組む。さらに、富士通が持つセンサー技術を活用。作業者や部品などに取り付けて、生産現場における様々なデータを取得し、より効率的な作業環境の実現を目指すという。これは富士通グループのなかでも先進的な取り組みとなる。
島根富士通の挑戦は、まだこれからも続く。
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