8月4日、サイボウズは日本橋の新オフィスを報道陣に披露した。東京駅から歩いてすぐというビジネス面での一等地という場所、クラウド系企業ならではの遊び心あふれた新デザインはもちろん、注目したいのはやはり「新しい働き方の提案」という役割を担っている点だ。
突き放されがちな「ショールーム」から参加型の「テーマパーク」へ
サイボウズが以前から働き方改革に熱心で、さまざまな人事制度を取り入れているのはご存じの通りだ。最長6年の育児制度、ワークとライフにあわせた選択型人事制度、場所と時間にとらわれないウルトラワークなどの制度とテクノロジーを組み合わせることで、より高い生産性やチーム力を実現している。新オフィスの発表会で登壇したサイボウズの青野慶久社長は、「2005年には28%だった離職率が4%にまで下がり、社員の満足度も上がり、働きがいのある会社の3位にも選ばれた。ブラックな会社がホワイト化されたということで、注目を集めている」と語る。
そして、こうしたサイボウズの働き方を積極的に発信していこうというのが、今回の新オフィス移転の大きなポイントだ。「軽井沢にこもっていてはなかなか注目いただけないので、日本橋に引っ越した。500名規模のまだまだ小さい会社だが、ここをハブにして、世界に新しいIT企業の姿を発信したい」という思いが「Big Hub for Teamwork」というコンセプトに込められている。
サイボウズの新オフィスは、働き方改革で重要な「制度」「テクノロジー」「風土」という3つの要素をわかりやすく見せるという役割を持つ。どれ1つ欠けても、見えにくい働き方改革の全体像を腹落ちさせるための「舞台」という。新オフィスの投資対効果に対して、半分は広告宣伝という答えが返ってきたのもうなづける。
しかも、従来のような単なるショールームではなく、参加型のテーマパークとなっているのが、注目すべき点だ。
以前から美しい家具や内装の置かれたオフィス、エンジニアが好きそうなオフィスは数多く存在していたが、これらはあくまで社員が働きやすい環境を見せるというショールーム的な位置づけにとどまっていた。そのため、見学者にとってみれば、「御社のような先進的な企業なら実現できるけど……」という突き放しにつながっていたのも事実だ。実際、過去の先進的なオフィスの見学でオオタニも同じ感想を持った。
しかし、サイボウズの新オフィスは、ショールーム化をより突き進め、「だったら実践してみてください」という提案にあふれている。エントランスを来訪者のワークスペースとして開放したり、受付でPepper君との会話できるようになっていたり、外部来訪者を前提にセキュリティゾーンが細かく設定されているなど、意欲的な取り組みが数多く盛り込まれている。そして、社内のみでなく、社外のコラボも容易に行なえ、働き方の改革を体感できる。これがまさに「テーマパーク」と位置づけられる所以だ。
働き方改革の効果を指標として持つマイクロソフト
サイボウズがここまで大胆に働き方を取り込むに至った経緯は、昨年の頭に青野社長とさくらインターネットの田中邦裕社長との対談で出てきた「もはやハードウェア、ソフトウェア、サービスだけではなく、働き方まで揃わないとITって売れないんですよね」という青野氏の発言からも見て取れる。そして、この発言を引き出した経緯になる出来事が、青野社長の日本マイクロソフトのオフィス見学である。青野社長としては、マイクロソフトに学び、さらにマイクロソフトを超えるオフィス改革を以前から目論んでいたのではないだろうか。
そして、そのマイクロソフトといえば、働き方改革に熱心なIT企業として真っ先に挙がるだろう。グローバル企業としての知見やテクノロジーを持ち込みつつ、日本の風土にあう働き方改革を進めてきた同社は、「いつでもどこでも」といったオフィスの実現はもちろん、働き方改革でもっとも大きな障壁となるセキュリティと労務管理の問題にもメスを入れてきた。
テレワークに関する取り組みを説明した8月10日の発表会でも、会長となった樋口泰行氏自らが働き方改革や地方創生に対する熱い想いを語った。また、北海道の別海町との連携で新しいテレワークスタイルを模索するプロジェクトも開始するほか、多くの企業とコラボし、働き方改革をより幅広く拡げていくという。こうした巻き込み力は、マイクロソフトの強さの源泉でもある。
驚いたのは、働き方を変えた方がむしろ売り上げや生産性の向上につながるというデータをきちんと積み上げている点だ。社員満足度や働き方がいのある会社、事業生産性などの向上、あるいは残業時間、旅費交通費、女性の離職率などの削減率を指標として持ち、外資系企業としての説明責任をきちんと満たしているという。
この指標は働き方を売り物にするマイクロソフトの大きな武器だ。指標と成長率を働き方改革の効果として持ち、セキュリティと労務管理の課題への対処を提示すれば、経営者・管理層にとって、働き方を変えない理由はなくなるはずだ。ここまでやっているところに「ワークスタイルのリーディングカンパニー」を目指すマイクロソフトの底力を感じるのである。
テレワークを中心とした新しい働き方の実践が深刻な人手不足や地方創生といった市場動向と結びつき、本格化しつつある。長らく議論のみで実践が伴わなかった新しい働き方について、日本企業が真剣に考えなければいけない場面がやってきたのだ。今後、サイボウズやマイクロソフトを含めた多くのIT企業は、「働き方改革とITのセット販売」をより強固に推し進めて行くであろう。こうした中、労務管理とセキュリティで立ち往生している日本の会社は、果たして彼らに勝つことができるのだろうか? そろそろ答えが出てきそうな気がする。
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