性能/消費電力比はBlue Gene/Pの4.4倍
チップの絶対性能は15倍
話を戻すが、元になったPowerENの場合、2.3GHz駆動/0.97Vで消費電力65W、動作周波数を2GHzにして電圧を0.75Vに下げると消費電力が55Wになると論文に記されている。
A2コア以外の構成が違うため単純に比較は難しいが、Blue Gene/Qもまた0.8Vに動作電圧を落とし、動作周波数を1.6GHzに抑えて消費電力を55Wにしている。
これはBlue Gene/Pの16Wに比べると大幅に増えている計算だが、チップ単体の性能/消費電力比を見ると以下のようになり、Blue Gene/Pと比較して4.4倍近い改善がなされているのがわかる。
Blue Gene/P : 13.6GFLOPS/16W = 0.85GFLOPS/W
Blue Gene/Q : 204.8GFLOPS/55W ≒ 3.72GFLOPS/W
またチップあたりの絶対性能は15倍になっているため、絶対性能の観点でも性能/消費電力比の観点でも大幅に改善がなされている。
また、細かいところでは2次キャッシュにMulti-Versionという機能が追加されている。これは一種のトランザクションメモリーであるが、インテルのHSX命令とはやや異なる方式である。
前述のとおりBlue Gene/Qは4スレッドのSMT構成なので、同一のメモリーアドレスに対して複数のスレッドがデータを上書きするケースが考えられる。
Multi-Versionの場合、同一領域の2次キャッシュへの書き込みに対して、それぞれのデータを別々に保持しており、しかもデータの書き換えがあった場合にはスレッドの再実行を行なえる。
これは、大量のデータを複数スレッドで分散して処理するような場合に、スレッド間の排他制御を簡単にできる。
実際IBMは2012年のCool Chips XVで、通常の排他制御を使って64スレッドの同期を取るのに1万4000サイクル必要だったのが、Multi-versionキャッシュを使うことで、これを1000サイクルまで高速化できたと発表しており、地味ながら性能改善に一役買っている。
ただし消費電力が増えているので、冷却の問題が当然出てくる。Blue Gene/Qは、これもおなじみプロセッサーカードの形で装着される。
問題は冷却で、コンピュートノードは下の画像のように水冷となった。大雑把に計算すると、コンピュートカード1枚で25W程度(Blue Gene/Qチップ+DDR3チップ×72)なので、これを32枚まとめたノードカード1つあたりの消費電力は800Wほどになる。この密度で800Wでは、さすがに空冷では無理がありすぎるため、水冷は妥当な選択であろう。
一方I/Oノードの場合は、コンピュートカードは8枚だけが装着され、またI/Oカードの装着のために大きめの筐体が必要になる関係で、空冷で実装されている。
プロセッサー間ネットワークに関しては、Blue Gene/L・Pで採用された3次元のトーラス構造から、Blue Gene/Pでは5次元トーラス構造に変更されている。
この5次元トーラスだが、1つのミッドプレーンが4×4×4×4×2というトーラスで構成される形だ。ただこの話をするにはそもそもミッドプレーンの説明をしておかねばならない。
下の画像がBlue Gene/Pの構成だが、コンピュートカードを32枚まとめて1つのノードカードを構成するところまでは先に説明した。このノードカードを16個まとめたのがミッドプレーンというシャーシで、1つのミッドプレーンは32×16=512枚のコンピュートカードが装着されている。
このミッドプレーンを1つの単位として、5次元トーラスを構成しているわけだ。ちなみに1つのラックには、最大で2つのミッドプレーンと8つのI/Oノードが搭載できることになっている。
ところで、先に書いたとおり、Blue Gene/Pのプロセッサーコア(コンピュートカード)は1枚で204.8GFLOPSの性能を持つ。これは、1.6GHz×8FLOPS/サイクル×16コアという計算であるが、ということはこれを32枚集積したコンピュートノード1枚あたり6.55TFLOPS。ミッドプレーン1つで104.9TFLOPS、ラック1本では209.7TFLOPSという計算になる。
つまりミッドプレーン1つで、ASCI Whiteのフルシステムと同等の性能というわけだ。Blue Gene/Qの場合、設計目標は20PFLOPSの実現で、このためにはラックが96本あれば済むという目算である。
(→次ページヘ続く 「TOP500の1位に輝く性能」)
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