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マイクロソフト・トゥディ 第143回

ICTの積極取り込みに舵を切る愛媛県 - 日本MS 樋口社長・愛媛県 中村知事対談

2015年05月08日 12時00分更新

文● 大河原克行、編集●ハイサイ比嘉/ASCII.jp

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県全体が総合商社になる、次のステップ

 自治体にとって、民間企業とのタイアップは不可欠なものになっていると、愛媛県の中村知事は語る。知事就任前には、松山市長や、国会議員を務め、政治の世界に身を置く中村知事だが、それ以前は、三菱商事に勤務する商社マン。自らの経験をもとに、民間企業の感覚を持ち合わせた知事ともいえる。自治体には、民間企業とのタイアップが必要とする理由はなんなのか。

中村 自治体というのは、決まったことを、期限内に仕上げることを得意としている組織です。その裏返しといえるのが、新たなものを生み出すこと、チャレンジすることには弱いという点。私は商社出身で、その感覚からいえば、自治体が持つその能力の高さは認めつつも、社会の変化に臨機応変に対応できなければ、これから生き残れないとも感じています。

 知事に就任してからは、県庁内の意識改革を行なってきました。その意識改革には5つの柱があります。ひとつ目は、「なぜできないか」と“できない理由”を考えるのではなく、「どうすればできるか」という視点に切り替えること、ふたつ目には、倒産するという意識がないために生まれていたコスト意識の欠如を改めること、3つ目には、やってあげているという「御上」(おかみ)の姿勢から、一緒にやるという姿勢への転換を図ること、4つ目には、失敗をマイナス評価するのでなく、失敗を隠さずに公開することで、進歩につなげる意識改革。そし最後に、情報が氾濫する時代ですから、情報を活用する人材へと変わること。これらを基本に据えて、意識改革を進めていったのです。

 私が掲げたのは、「県全体が総合商社になる」という点。公共事業を行なったり、補助金を出すことが中心ではなく、自らが外に売り込み、PRしなくてはならない。経済政策の姿勢も、そうした方向へと転換したのです。

 しかし、次のステップに踏み出すためには、民間企業とのタイアップが必要。特に経済政策の面ではそれを導入したいと考えていました。そうした矢先に、日本マイクロソフトとの協業の話が始まったのです。

樋口 自治体の場合は、どうしても同質性の人が集まりやすい環境にあります。それに対して、日本マイクロソフトのような外資系企業の場合は、様々な経験を持った人が集まり、様々な国籍の人も在籍しています。異なる発想やアイデアを持つ人が集まることでイノベーションが起こります。これは、組織の活性化には不可欠なものです。海外事例を紹介したり、仕事の進め方や、新たなツールを紹介するという活動を通じて、刺激剤の役割を果たしたかもしれませんね。

民間のスピード感

中村 日本マイクロソフトと協業を開始して感じたのは、スピード感の違いですね。提携が決まってから、サイトが立ち上がり、障害者向けのプログラムを開始するといった、そのスピード感は、とても行政マンでは考えられないものでした。県庁の各現場が一緒に仕事をすることで、民間のスピード感とはこういうものである、現場での段取りはこうやるんだということを学べたと思っています。

 県庁の職員は非常に優秀で、「この日までにやってくれ」と言えば、きっちりとそれが出てくる。これには驚きます。ここにマイクロソフトのようなスピード感が備わったら、鬼に金棒だと思います。そういう意味では、非常にいい機会が得られたと思っています。

樋口 企業の場合は、評価制度があり、ガバナンスも効きやすい。駄目となれば、「あなたはこの会社にいらない」と言われてしまいますからね(笑)。大切なのは、社員や職員がモチベーションをあげられる環境を作り、好循環を作ることですね。高い目標だったが、やってみたらできた。そうしたら今度は、「これもできるんじゃないか」という次のビジョンが描けるようになる。そうした環境が愛媛県の中にはあるように感じますし、それを中村知事がリードしていることを感じます。

福祉サービスの切り捨てや負担増ではない、第3の道

中村 私は福祉にも、ICTが活用できないかと考えています。今、福祉システムには大きな変化が訪れています。もともと日本の福祉システムは、プラミッド型の人口形態の中で作られたものです。その構造がドラム缶型になり、さらに逆ピラミッド型になるなかで、成り立たなくなるのは当然の帰結です。

 これからの選択方法は、3つしかない。ひとつは福祉サービスを切り捨てる。2つめは負担を徹底的に引き上げる。

 これが嫌ならば第3の道を選ぶしかない。それは行政とNPO、ボランティア、そして民間企業により、質を落とさない新たな福祉サービスを探り当てていくということです。これも民間企業の協力が必要です。今の日本の変化に対応するためには、行政のみではできません。


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