【後編】『SHIROBAKO』プロデュース 永谷敬之氏(インフィニット)インタビュー
「SHIROBAKOを最後に会社を畳もうと思っていた」――永谷P再起の理由
2015年07月12日 15時00分更新
「後世に残したい」とは
『絶対に売ってやる!』という覚悟を示す言葉
永谷 現在、年間160本前後のアニメがつくられています。そのなかには、人々の記憶に残らない作品があります。さらに言えば、良い作品と呼ばれたにもかかわらず、忘れ去られて後世に残っていかないこともあるんです。
これが、うちの会社が存続させていただいている理由の1つではないかと。僕は「後世に残す」という言い方をしていますが、これはつまり「作品の寿命を伸ばす」という意味になると思います。
過去作品のどれが売れた、売れなかったという区別はせずに、等しく作品を残す努力というものをうちの会社はさせていただいています。自分で立ち上げた企画ですから、最後まで面倒は見る覚悟はあるという姿勢を見せるわけです。
「作品を10年運用します」というのは、言うだけなら誰でも言えますが、『花咲くいろは』はテレビ放送から5年経ってもラッピング電車を走らせていますし、まだ折り返しポイントなので向こう5年はやり続けます。後世に残すためには、売らなきゃいけない。必然的に「売りましょう!」というプロデューサーとしての覚悟の話ですね。
……と、そんなことを言いつつ、僕は『SHIROBAKO』が終わったら、会社を畳んでアニメ業界を引退しようと思っていたのですが(笑)。
―― えっ。それは本当ですか?
永谷 はい。本気で。『SHIROBAKO』終了後、どうやって会社を閉じようかな……と。
アニメ業界を引退しようと思った
永谷 心理的な経緯としてはまず、やりたいことをやるために会社を立ち上げたわけですが、おかげさまで5年間やってきて、そういった作品をたくさんつくれましたと。
それでいて、決してアニメ業界というのは好景気ではない。うちのような企画会社がこの先どれだけ必要とされるかは、自分のなかで今でも未知数な部分があります。
そして、歳をとって自分の感性が視聴者とズレてしまうこともあるかもしれない、とも思いました。
そんなふうに思うことが多くなってきたときに、P.A.Worksの堀川さんが『SHIROBAKO』をやろうと。じゃあ、アニメ業界ものをやって、5年目のタイミングでこの業界を去るのも一興かなと、じつは思ったんです。
―― では、現在は会社を畳もうとは――?
永谷 思っていません。なぜ心変わりしたかと言いますと、『SHIROBAKO』の制作中、放送1年半前からシナリオを読みつつ制作に携わっていくうちに、思うところがいっぱいありまして。
自分のアニメへの関わり方に関しても、考えが変わってきたんです。それに僕自身、主人公・宮森あおいの心理と重なるところが多かったのですね。
19話で、あおいが子どもの頃大好きだった『山はりねずみアンデスチャッキー』のセル画を見つけたり、映像を見て「ああ、すごい」って感動するシーンは、僕がアニメ業界に入った頃の心理とすごく重なる気がしました。
―― あおいが劇中アニメ『チャッキー』のセル画を見ているところから、武蔵野アニメーションの丸川社長たちの若い頃のシーンへとつながる名場面でしたね。
永谷 僕は、『新世紀エヴァンゲリオン』や『機動戦艦ナデシコ』を見て憧れて、それらを手掛けたキングレコードのスターチャイルドにアルバイトとして入れてもらいました。
働き出すと、お客さんだったときには見えなかった苦労がいっぱい見えたりするんですよ。それでも、昔のセル画や絵コンテとかを見つけて「ああ、すごい」って感動して、仕事への喜びを思い出す。
だから最終回で、ロロがあおいに向かって「このままアニメを作りたいのか、作りたいとしたらなぜなのか」という問いかけと、あおいが出した結論が、心にすごく響いたんです。
“アニメを作ることが好きだし、アニメを作る人が好きだから、これからもアニメを作りたい”。
―― 物語が現実のご自身と重なったのですね。
永谷 はい。そして業界に留まろうと思ったもう1つの理由は、こちらは現実の話ですけれども、うちの会社に初めて新入社員が入ったんですよ。
あおいたちのように、「アニメをつくりたい」という若い子たちが入ってきて、さらに、うちの会社で働きたいと言ってくれる子たちがいることにすごく喜びを覚えまして。
(次ページでは、「部下を持つことで得たものは後世に引き継ぐ喜び」)

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