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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第39回

【後編】『SHIROBAKO』プロデュース 永谷敬之氏(インフィニット)インタビュー

「SHIROBAKOを最後に会社を畳もうと思っていた」――永谷P再起の理由

2015年07月12日 15時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko) 編集●村山剛史/ASCII.jp

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(C)「SHIROBAKO」製作委員会

「堀川さんの最後の作品は僕にやらせてね」

―― 堀川さんの「明日も頑張ろう」は、永谷さんの柱にもなっているのでしょうか?

永谷 信頼しているのは堀川さん自身ですね。もしこれが面識のない方の企画で、「これは採算が取れるかどうか」の算段だけで考えたら、仕事としては「やめよう」と言う判断になったと思います。

 「アニメ制作現場を描いたアニメ」は、労力と予算を考えただけでも、ものすごく大変だろうなと想像がつきます。覚悟を決めてつくらない限りは無理ですから。もしくは「お仕事ものアニメ」だとしても、もう少しライトで、深夜アニメ向きなものにしようと判断したと思います。

 でも、堀川さんずるいなと思ったのは、『これは永谷に持っていけばやってくれるだろう』と思って持ってきたところ(笑)。

―― 永谷さんもまた、堀川さんから信頼されている、ということですね。

永谷 堀川さんは、『SHIROBAKO』で言う武蔵野アニメーションの丸川社長みたいなポジションなわけです。セル時代からアニメをつくってきて、社長になってからは若い人たちと一緒にデジタルへの過渡期を見ているという。

 ですから『SHIROBAKO』の物語的にも、堀川さんなりに自分のプロデューサーとしての最後というものを見据えていて、自分がアニメ業界に残せるものを今回やりたいのだろうなと。

 堀川さんがそう思っているのであれば、これは俺が何とかせにゃあかんなと。

 堀川さんにもよく言うのですが、「堀川さんが最後にプロデューサーをやる作品はうちでやらせてね」って。

―― 熱いお話ですね。アニメ制作は、どこまでいっても個人がベースであるところが興味深いです。

永谷 先ほどお話した『花咲くいろは』を作品として残す努力をあと5年続けて、10年経ったときに初めて「あのとき言っていたことが本当に実現しているよね」となると、うち的にはやり遂げたことになるのかな。

 5年目で会社を畳もうとしていたときには、『10年残すとかいろいろ宣言しちゃったけれど、ごめんちゃい』と思っていたのですが、腹をくくった今は作品を10年残すために働いています。

 僕が見てきた大好きなアニメーションというものを、後世に残したい。会社の理念としていくつかあるうちの1つが、将来、うちの子が――まだ2才なんですけれども――もしもアニメを見るような歳になったときに、「こういうものをつくってきたんだ」と見せられるものをつくりたい。世の中的にも、マーケット的にも評価されるものをつくってきたと、父親らしく言いたい、みたいな(笑)。

「刹那的に、今この置かれている状況において、もううんざりだとか思うことはあっても、番組の打ち上げがあれば、全てリセット、なかったことになります(笑)。リタイアしていちファンに戻ることは考えても、アニメ業界自体が嫌いになることはありません。もうこんな業界嫌だと思ったことはないですね」

アニメ業界はスリリングかつハートフル!

永谷 いろんなことを考えています。夢も妄想も含めて、全部、十把一絡げ的に何となく語れちゃうのがアニメ業界のいいところだと思うんです。

 ああなったらいいな、こうなったらいいなって思ったことが、アニメ業界は、実行力さえあれば案外どうにかなる可能性がある世界だと僕は思っていまして。

 アニメ業界はスリリングかつハートフルだとよく思うのですが、スリリングと言うのは、たとえばSHIROBAKO最終回のように当日納品だったりとか、それこそ作中で描かれたあらゆることがスリリングですよね。

 けれどもハートフルなところもいっぱいあって、日々刺激を受けながら働いていくことに一番楽しみを感じています。アニメ業界って、昨日と同じ日ってあまりないんです。たとえば、V編とかアフレコとか、同じ作業をしていても、当然、話数も違えば出ている人も違うということで、異なる刺激が毎回あるので、自分も頑張らなきゃと思うことができるんです。

 自分にクリエイティブな才能がもっとあれば、と思うときもありますが、周りにいるクリエイティブなセンスを持っている人たちの刺激に触れられるので楽しいですよ。

 ファンに戻りたいと言ったときのファンの心理につながる話ですが、上がってきたばかり出来立てほやほやのアニメを特等席で見られるという、こんな喜びに浸れることはそうありません(笑)。

 やめちゃおうかと思っていた時期もありましたが、まあ、『SHIROBAKO』の最終回が納品された今この瞬間のテンションだけで言えば、天職なのかなと思います。

 あと6、7時間後ですが、最終回が放送されることを祈って。

―― どうもありがとうございました。

(C)「SHIROBAKO」製作委員会

前編はこちら

著者紹介:渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)

 1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。著書に『ワタシの夫は理系クン』(NTT出版)ほか。

 連載に「渡辺由美子のアニメライターの仕事術」(アニメ!アニメ!)、「アニメリコメンド」「妄想!ふ女子ワールド」(Febri)、「アニメから見る時代の欲望」(日経ビジネスオンライン)ほか。

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