前回はASCI Blueの片割れであるASCI Blue Mountainを解説したが、今回はもう1つのASCI Blue Pacificである。
ASCI Blue Pacificが生まれた経緯は連載288回をお読みいただきたい。ここでIBMが提案したのはSP-2をベースとしたシステムである。まずはここから説明しよう。
IBMが作ったASCI Blue Pacific
ベースはUNIXサーバーのRS/6000
IBM SPの正式名称は、IBM Scalable POWERparallelで、これをIBM SPあるいは単にSPと略する。ベースになるのは同社のRS/6000というUNIXサーバーである。
IBMのサーバーといえば、元々はS/360(System/360)→S/370→ES/9000(Enterprise System/9000)→S/390→AS/400という、独自アーキテクチャーの系列が非常に有力だった(実際はこんなに単純ではないし、他のSystem/38なども絡んでくるが、ここではおいておく)。
この系列とは別に、1987年にRT PCという名称でRISCプロセッサベースのワークステーション(IBMによればパーソナルコンピューターだそうだが)を開発、翌年にはこれを発展させたRT Model 130/135/B35という3製品をリリースする。このシリーズは1990年2月に、RISC System/6000(RS/6000)と改称され、以後2000年までこの名前を使い続ける。
このRS/6000は、非常に構成が複雑である。初期のRS/6000はPOWERプロセッサーをベースとし、後でPowerPC(PowerPC601/604/604e)を利用したモデルが追加されているからだ。
おまけにこのPOWERプロセッサー(区別のためにPOWER1とする)にしてからが、RIOS-1/RIOS.9/POWER1+/POWER1++/RSC/RAD6000と6種類も存在する。
特に初期のRIOS-1の場合、CPU全体が10個ものチップから構成されており、プロセッサーチップというよりはプロセッサーボードである(画像)。これの低コスト版であるRIOS.9でもまだ8個ものチップが必要になっている。
これがワンチップ化されたのは1992年に投入されたRSC(RISC Single Chip)からであるが、ワンチップ化の代償としていろいろ性能を落とさざるを得ず、性能的には上位モデルには遠く及ばなかった。
細かく記載すると、RIOS-1の場合は以下の10個のチップからなるが、RIOS.9ではDCUを2つに減らして8チップになっている。
- 命令キャッシュユニット(ICU)
- 整数/固定小数点演算ユニット(Fixed-point Unit)
- 浮動小数点演算ユニット(Floating-point Unit)
- 16KB データキャッシュ(DCU)×4
- ストレージ制御ユニット
- I/Oユニット
- クロック
すべてのチップはIBMの1μmプロセスで製造され、RIOS-1の場合の総トランジスタ数は690万個であり(うち486万個がキャッシュ、ロジックが214万個)、ダイサイズの合計は1284mm2にも達した。
RSCでは0.8μm CMOSに微細化し、ダイサイズは22mm2弱に押さえ込んだが、当然ながら大容量データキャッシュを搭載する余地はなく、8KBのユニファイドキャッシュを搭載するのが精一杯。
また、ICUもそのままでは乗り切らなかったようで、レジスタ・リネーミングの機能を落とすなどの変更がなされている。FPUもフルの64bit(Double)演算機能は実装しきれず、64bit演算は32bit演算を2回まわす(つまり倍以上遅くなる)方式で乗り切っている。
以上のように、命令セットそのものは互換ながら、性能はずいぶん落ちるものになった。このRSCがその後のPowerPC 601につながる(あくまでも原型になっただけでRSC=PowerPC 601ではない)のだが、その話はおいておこう。
(→次ページヘ続く 「クラスター結合でマルチプロセッサー化」)
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