ビデオ配信に傾倒していくnCUBE
nCUBEは無事にnCUBE 3をリリースすることに成功したが、これに続く製品であるMediaCube 4は、インテルのPentium IIベースのものとなった。その後に内部構成を変更した製品をいくつか製造するが、おおむねこのあたりでハードウェアの製造は終了している。
何があったか? という説明には、nCUBE 2が完成した頃に時間を戻す必要がある。前回、OracleのLarry EllisonがnCUBEの大株主になったという話をした。その後、nCUBEはOracleと共同で、科学技術計算以外のアプリケーション移植を進めることになる。
この結果として、OracleのデータベースがnCUBE 2上に移植されたりもしたのだが、それより有望なアプリケーションとしてVOD(Video On Demand)サーバーという市場をnCUBEのプロセッサーを使って開拓しようという流れが出てきた。
1995年6月に、同社はCEOとしてRonald Dilbeckを迎え入れる。その1ヵ月前、同社は公式にMetroMedia Serverという名称でnCUBE 3ベースのVODサーバーを提供することを発表しており、Ronald Dilbeckがこの旗振り役として選ばれた格好だ。
同時に同社はIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)も行なう。もっともこの方針が徹底されたのは、1997年に入ってからのことである。下の画像はInternet Archiveに残る1996年11月のnCubeのホームページだ。
ローエンドには8~128ノードのnCUBE 2S M5 Systemが提供され、こちらは超並列マシン向けに加えてビデオサーバーが用途として挙がっている。
それに対し、ハイエンド向けには64~8192ノード構成のnCUBE 2S M10 Systemを用意し、OracleのParallel Server softwareを動かしてのLarge Scale Decision Support(意思決定支援システム)向け用途とされており、ビデオ・オン・デマンド向けだけではまだ市場として不十分と考えていたようだ。
ちなみにまだこの時期、nCUBE 3ベースの製品はラインナップされていない。この動きが遅いと思ったのかどうかは不明だが、1996年にRonald DilbeckはCEOを解任され、nCUBEはMBOによりOracleのネットワークコンピューター部門の配下に入ることとなった。
1997年には、nCUBE 3をベースとしたMediaCUBEファミリーがラインナップされている。先に少し触れた、JAISTに導入されたnCUBE 3マシンとは、このMediaCUBE 3000 Serverである。
MediaCUBE 3000 Serverの場合、最大512ノード構成となっており、同時に2万ストリームのMPEGを取り扱い可能というものだった。
その後1999年にはCATV向けにVODサービスを提供するソフトウェアを開発していたSkyConnect, Inc.を買収するとともに、再びIPOを行なう。
もうこの時点で同社は新規のnCUBEチップの開発は完全に中止しており、続くMediaCUBE 4はインテルのプロセッサーベースとなっている。
このMediaCUBE 4はいくつかバージョンがあったが、内部の仕組みがSeaChange Internationalの保有していた特許を侵害しているということで2000~2005年まで訴訟が続いている。
これもあってか新規のハードウェア設計を手がけるという話もなく、MediaCUBE 4を2台つなげたものをMedia CUBE 5として販売したのが最後である。
2002年にはLarry EllisonがCEOから引退、SkyConnectのCEOを勤めていたMichael PohlがnCUBEのCEOとなり、もっぱらVOD関連のソフトウェアに製品を絞り込むこととなった。
最終的にnCUBEは2005年に、やはりVOD関連製品を手がけていたC-CORに買収されるが、同社は2007年にArris Groupに買収されている。
今現在、nCUBEのウェブサイト(http://www.ncube.com)に行くと、自動的にARRIS Groupのページに飛ばされることだけが、かろうじてnCUBEの痕跡を残している、と言っていいだろう。
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