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人月単価、情シスの失墜、肥大化するSIer、そしてSIの将来は?

「納品をなくせば」の倉貫CEOたちが語る新しいSIへの道

2014年12月01日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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11月28日に開催されたCybozu Conference 2014では、「納品をなくせば」の倉貫義人氏など新しいSIにチャレンジする4社によるパネルディスカッションが行なわれた。人月単価や情シスの課題、肥大化するSIerなど、問題の本質を突き詰める熱い議論が交わされた。

現場もお客さんも幸せにしない「人月単価」という魔物

 「私たちが新しいSIに進む理由~クラウド時代に生き残れるSIビジネスとは~」と題されたパネルディスカッションに登壇したのは、納品のない受託開発を進めるソニックガーデンの倉貫義人氏、39万円でのシステム開発を手がけるジョイゾーの四宮靖隆氏、機械学習とkintoneを組み合わせたシステムを手がけるTISの久保隆宏氏、ソフトバンクグループのSI子会社であるM-SOLUTIONSの植草学氏の4名だ。

パネルディスカッションに登壇したTISの久保隆宏氏、ソニックガーデンの倉貫義人氏、ジョイゾーの四宮靖隆氏、M-SOLUTIONSの植草学氏

 4名は会社は違えど、既存のSIについて一家言持っており、短納期や定額制など新しいシステム開発にチャレンジしている点は共通している。特に午前中の基調講演にも登壇したソニックガーデンの倉貫CEOは、同社のポリシーやビジネスモデルを描いた「『納品』をなくせばうまくいく」がベストセラーになっており、業界に大きな波紋を起こしている。

 サイボウズ青野慶久社長の基調講演では、ウォーターフォール型の開発や多重下請け構造などの課題が遡上に上がったが、モデレーターであるサイボウズの伊佐 政隆氏は、まず多くのSIerが当たり前のようにやっている人月単価の妥当性について各氏に問いかける。

 M-SOLUTIONSの植草氏は、「工数と単価は客との交渉条件でわかりやすいだけで、実質意味はない」と指摘。同社では人月単価での見積もりは出さず、機能ごとに金額を出して、予算内で収まるようにするという。

 ジョイゾーの四宮氏は、人月単価はエンジニアのレベルと時間の積算でコストが決まるため、期間が長くなればなるほど高くなる点が問題と指摘。「郵便だって、早く着く速達に価値があるのに、SIは人月単価だと長く作れば多くのお金がもらえる。だから早く作るのが悪いことのように思ってしまう」(四宮氏)。倉貫氏は、「人月商売ってアルバイトといっしょで、時給換算の作業をエンジニアにやらせていること。エンジニアを馬鹿にしているような発注の仕方」と厳しく糾弾。そして、これを続けている限りは単価の安いオフショアや自動化に流れるのは当たり前だと語った。

 また、久保氏は、「お客様が欲しいのは見積価格であって、人月単価ではないのでは? なぜこれだけの金額がかかるのか、根拠を提示するわかりやすい理由として使われてきただけ」と語る。本来の料金はその開発が生み出す「価値」にあるはずだが、ユーザーがこの価値の判断を留保しているために、上司を説得するのにわかりやすい人月単価が使われているのではないかという論だ。

 植草氏は、「昔は一から作るしかなかったし、作るのにどれくらいかかるかもわからなかった。だから人月単価のような概念が生まれたのではないか」と語る。しかし、時代が変わり、モジュールやプラグインなど再利用可能なものが増えたので、そもそも速くものが作れるようになった。「kintoneはその最たるモノで、自社内に設定できる人がいれば、開発すらいらなくなる。利用までの時間を短くしたい人が最初だけSIに頼めばいい」(植草氏)。

M-SOLUTIONSの植草学氏

情シスの代わりにシステムの発注元として台頭する業務部門

 パネルでは、次にシステムの発注元が情シスから業務部門に移っているという現状について議論が交わされた。

 四宮氏は、「昔は情シスがお客様だったけど、最近は業務部門が直接相談に来られる」と語る。この背景にはやはりクラウドの台頭があり、インフラを持たないがために情シスが関与する必要がなくなってきたからだ。倉貫氏も「僕らは情シスの人たちとお仕事をしたことがない。業務部門やスタートアップがほとんどで、情シスからはそもそもオファーが来ない」と発言し、会場を沸かせる。

 倉貫氏によると、インターネットの登場以降、多くの業務部門は新しい顧客やパートナーとの付き合いをスタートさせようと、情シスにシステム開発を依頼するが、彼らは首を縦に振らないという。「情シスのミッションは全社のガバナンスなので、特定部門だけというわけにいかない。だから業務部門は(情シスを飛び越えて)クラウドを使うようになる」(倉貫氏)。久保氏は、「情シスと業務部門で課されているものが違っている。SIerが情シスをお客様にすると、障害発生やバグの少なさなどが品質基準になり、実際に使っている業務部門の評価は二の次になっていた」という問題点を指摘。植草氏も、「昔は業務部門とSIerのやりとりの通訳として情シスが必要だったが、今はプロトタイプを見せながら、業務部門と要件についてやりとりできる。情シスはあくまでサポートという役割になっている」と応じる。

 システム開発の発注元として台頭してきた業務部門とはどう付き合うべきか? 久保氏は、「情シスの人に仲介にしてもらって、業務部門の人たちと話せるようになったという例があった。しかし、業務部門と話す際は、お客様の業務についての理解が必要になるので、会えば話がすぐ進むというものでもない」と語る。

 倉貫氏は、商売のやり方が変わるため、従来通りの営業はもはや意味をなさないと指摘する。「新しいお客さんを呼び込むのは、たぶんマーケティングが必要。プレゼンスを上げて、マーケットで存在感を出して、お客様から来てもらうようにする。サイボウズさんのようにプロダクトやサービスを持っている会社は当たり前のようにやっているが、(受託開発のSIerも)こういう方向に逆転するしかない」(倉貫氏)。

 一方、情シスの存在感はなぜ低下したのか? 以前、ロータスノーツなどの管理していたという四宮氏は情シスの立場について、「情シスの評価は持ち点100からの減点制。動いていて当たり前で、落ちたら減点。こうなるとどんどん保守的になってきて、業務部門の要求で作るものの責任をSIerさんに丸投げしてしまう」と語る。しかし、開発責任がSIerに来ると、それを担保する保険として、SI料金が高騰する。そして、情シスは保険料として、この高騰を受け入れざるをえない。

ジョイゾーの四宮靖隆氏

 これに関して倉貫氏は、「丸投げって言うけど、(開発そのものではなく)要はリスクを丸投げしている。情シスがSIerにリスクを丸投げするっていう点では、爆弾渡すゲームみたいなもの」と手厳しい。爆弾を渡される側のSIerも、ユーザーの足下を見ながら、リスクを見越して、バッファを積んでいくのが優秀なプロマネージャとして評価してしまうという。

(次ページ、大手のSIerが肥大化する理由とは?)


 

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