大谷イビサのIT業界物見遊山 第16回
「理想は成功報酬。現実は……」課金から見るビッグデータビジネスの難しさ
ビジネスの成果に課金できるか?TD芳川CEOが投げた課題
2014年06月16日 06時00分更新
6月12日に開催されたトレジャーデータ(TD)の事業戦略説明会に遅刻してしまった。ダブルブッキングで冒頭30分の遅刻なので、すでにニュース記事を書く資格は私にない。しかし、課金に対する私の質問に答えてくれた芳川裕誠CEOのコメントは、それだけで行った価値があると思わせるものだった。
ビッグデータは儲かるビジネスなのか?
2011年にシリコンバレーのマウンテンビューで創業し、米国のビッグデータプレイヤーとしていいポジションを築きつつある米トレジャーデータ。“日本語も話せる日本人経営層”(もちろん褒めてます)による事業戦略発表会には、多くのプレスが駆けつけ、会場も満員となっていた。
私が遅刻した30分のうちに説明された内容の詳細は、他のIT媒体の記事を読んでほしい。配布された手元の資料によると、ビッグデータの収集・保管・分析までを一気通貫で行なうクラウド型データマネジメントサービスとしてトレジャーデータの導入は着々と進んでおり、グローバルでユーザーを増やしているとのこと。日本ではクックパッドやマネックス証券のほか、NTTドコモやグリー、リブセンス、良品計画なども顧客として名前を連ね、同日には複数のWebサービスのログを収集し、横断的に分析するGMOペパボの事例も公開された。こうした先行事例をベストプラクティス化すると共に、今後増えて来るであろうIoTの分野に注力していくのが、同社の戦略だという。
こうした戦略の中で、私が注目したのは、「で、トレジャーデータは儲かるんですか?」という点である。同社のかかえるデータは2年間で約1万倍に拡大しており、現在は6兆件を超えるという。しかし、かかえるデータの増加に比例して、売り上げは上がるわけではない。データ管理まで行なうトレジャーデータはインフラを保持しつつ、お客様からどのようにお金をもらっているのか? 以前、CTOの太田氏に聞いた際に「スタートアップにとって難しい」と話していた課金(プライシング)の部分を、まさに1年越しで芳川CEOに聞いてみることにした。
ビジネスの成功にITは課金できるか?
これに対しての芳川CEOの答えは、「理想はお客様のアウトプット(成果)に対して課金したい。ただ、現実は計算リソースとデータ量のインプットでのチャージになっている」というもの。米国のベンダーのように煙に巻かず、本音を答えてくれたと思う。そして、この一言に“サービスとしての”ビッグデータビジネスの1つの課題が凝縮されている。
先日、取材したEMC WORLD 2014で米Pivotalのポール・マリッツCEOが説明していたのが、構造化、非構造化などあらゆるデータを溜め、用途にあわせて引き出す「Data Lake」の構想だ。そこでマリッツ氏は、データの保存においてはもはやユーザーに課金せず、データをメモリに載せ、計算が走った段階で従量課金するというモデルを打ち出した。つまり、データ保存や管理はもはやお金にはならず、分析のプロセッシングやデータの入出力で初めてチャージできるという方向性だ。そして、前述したトレジャーデータの“現実のチャージ”はまさにこの段階にあると言えるだろう。
しかし、プロセッシングやデータ入出力を軸にするこの課金手法は、あくまでテクノロジー観点のチャージだ。だが、マーケティング部門のようなビッグデータの主たるユーザーは、こうした計算回数やデータ量によるチャージを求めていない。少なくとも、私が取材を行なったすかいらーくグループや良品計画の担当者は、キャンペーンの成功率、来客数、売り上げなどの経営に直結する指標をベースにビッグデータを動かしている。コンピューターリソースの使用率にこだわりを持っているようには思えなかった。
こうして突き詰めていくと、将来的なビッグデータのビジネスは、もはやプロセッシングやデータの入出力ではなく、芳川CEOが“理想の課金”と語ったビジネスの成果に対する課金になるのではないだろうか? 芳川CEOや日本での事業展開を進める堀内健后氏も、私の認識では「ビジネスに明るいエンジニア」よりは「テクノロジーに明るいビジネスマン」というイメージなので、「本当はビジネスの成果で課金したい」という思いは強いはず。しかし、実際はきわめて難しい。ハードルは高く、ベンダーの首を絞めることにもつながってしまう。「お客様の成功は私たちの成功」という話はよく聞くが、実際にやろうと思うと、ベンダー側にもそれ相応の勇気が必要になる。
とはいえ、テクノロジーとビジネスが高いレベルで融合しつつある米国の動向を考えると、こうした成功報酬的なITの課金は先に進みそうな気がする。特に、ビジネス的なメリットに直結するビッグデータの分野で、その先陣を切っていくのではないだろうか? そんなことに思いを馳せた質疑応答であった。
筆者紹介:大谷イビサ
ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。
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