MicrosoftとNokiaが4月25日、Nokiaのデバイス事業の取得を完了したと発表した。世界最大手のソフトウェアメーカーであるMicrosoftが、ついに世界第2位の携帯電話メーカーになる……この買収にはそんな意味があるのだが、買収が発表されてから7ヵ月、その間の経緯から注目のポイントが変わっているのでまとめてみたい。

Lumiaのフラグシップ「Lumia 1520」。Microsoftのロゴが入るようになる?
NokiaはMicrosoft Mobileへ
Nokiaのデバイス事業を約54億4000万ユーロで買収することで合意したとMicrosoftとNokiaが発表したのは2013年9月のこと。Nokiaは複数の事業部を持つが、Microsoftが手に入れるのはデバイス&サービス事業部と関連する特許で、前者が約37億9000万ユーロ、後者が約16億5000万ユーロと評価された。これによりフィンランドのNokia社に残るのは、無線インフラ機器のNokia Solutions Networks(NSN)、地図・位置情報サービスのHERE、先進技術開発とライセンスとなる。
デバイス事業は「Windows Phone」ベースのスマートフォンブランド「Lumia」、それにミッドレンジ~ローエンドの「Asha」、フィーチャーフォンが含まれる。Nokiaは2月の「Mobile World Congress」にて、このラインに「Nokia X」を加えた。Android(Android Open Source Project)のフォークを土台としたエントリー向けスマートフォンだ。
当初は2014年第1四半期に完了予定だった取引だが、年末に欧州と米国の規制当局の承認を得た後に難航した。主として中国の規制当局の承認に時間がかかったこと、そしてインド・チェンナイにあるNokiaの製造工場でインド政府と税金についてもめたことなどがあったようだ。25日に発表された内容によると、インドと韓国・馬山の両工場は含まれないという。
その結果、Microsoftは当初より5000人ほど少ない約2万5000人のNokia社員を飲み込むことになる。これには、2010年9月にMicrosoftから引き抜かれてNokiaのCEOに就任したStephen Elop氏、元々はSymbian端末、直近ではスマートフォンを率いていたJo Harlow氏などが含まれる。Elop氏はMicrosoftのデバイス/サービス事業トップとしてビジネスを率いることが決まっている。
Nokia自体は存続することもあり、「Nokia」ブランドはフィーチャーフォンのみで利用し、基本は「Microsoft Mobile」として運営されることになる。Microsoftは移行期として今後1年の間、Nokiaのドメイン(http://nokia.com/)とNokiaのソーシャルメディアを維持するともしている。
MSが端末メーカーになって成功する
そして「Windows Phone」の無償化
Nokiaのデバイス事業のお値段は54億ユーロ、つまり約75億ドルだ。これはSkypeの買収金額である85億ドルを、実は下回る。それでも、“デバイスとサービスカンパニー”を目指すMicrosoftにとって、年間2億台の携帯電話を世界に出荷しているNokiaを手に入れることは大きな意味を持つ。同社の運命を左右しているといっても過言ではないかもしれない。
Microsoftが「Windows Phone」というモバイルOS、そしてタブレットでも利用できる「Windows」を持ち、これらを他のOEMにライセンスするのを主事業としていると考えるとデバイス事業を抱えることは簡単ではない。
古くは「Palm OS」の分離を試みたPalmがあるし、Motorola Mobilityを手に入れたGoogleは3年足らずで手放すことを決意した。そして当のNokia自身もその難しさを知っているはずだ。Android対抗を試みて他社と共同出資していたSymbianを買い取りオープンソースにしたものの、Samsung、Motorola、Sony Ericsson(当時)とかつての”盟友”はみなAndroidを選んだ。その後のMeeGoでも、自社以外のモバイル端末メーカーを正式に取り込むことはできないままだった。
もっともそのこと自体は、2012年に「Surface」でタブレットに参入したMicrosoftもわかっているだろう。たとえばHewlett-Packard(HP)のCEOは公の場で、Microsoftを「直接の競合」と述べている。Lenovo、HP、DellなどPCではWindowsを採用するOEM各社もタブレットではAndroidラインを持っている。Gartnerによると、2013年のWindowsタブレットのシェアは倍増したとはいえ2%台、一方Androidは45.8%から61.9%に増やし、さらに水をあけた。(先の決算で、Surfaceは売れれば売れるほど赤字という気になる数字も出たが、これはまた別の機会に)
現在、Nokia以外にWindows Phoneをラインナップに持つメーカーは、Samsung、HTC、Huaweiなど。MicrosoftはMWCでLG、Lenovo、ZTE、Foxconn、Micromaxなどと新たに提携したことを発表した。これにより、スマートフォンメーカー上位10社中7社と手を組んだとしている。同時にSnapdragon 200/400のサポート、デュアルSIM、ソフトウェアキーなどハードウェア要件も下げ、メーカーにアピールした。
それが布石だったことがわかったのは、今月初めのMicrosoftの自社イベント「Build」でのことだ。ここでMicrosoftは画面サイズが9型を下回る端末に対してWindowsとWindows Phoneを無償にするという大胆な発表で市場を驚かせた。だが同じく無償であるAndroidと同じ条件になるかというとそうではない。Androidはオープンソースであり、Windows Phoneは異なる。この差はOSの自由度などの点から、引き続きメーカーにとって大きいだろう。もちろん、Windows PhoneとAndroidのエコシステムに大きな開きがあることはいうまでもない。

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