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レガシーな会計ソフトの市場は動いたのか?

セクシーじゃないけどすごかった!freeeの1年を振り返る

2014年04月10日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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昨年3月のリリース以来、快進撃を続けるクラウド型の会計ソフト「freee(フリー)」。レガシーな業務ソフト市場に風穴を開けたfreeeの代表取締役 佐々木大輔氏が、激動の1年を振り返りつつ、次の一手を語る。

リリースから約1年で6万件を突破

 「レシートは紙に張らなきゃとか、伝票は手書きじゃなきゃとか、経理のサインや印鑑が必要とか、頭に固着している商習慣を全部取っ払って、会計や経理を電子化する」(佐々木氏)。freeeのコンセプトは明確だ。面倒な会計業務を自動化し、本業にフォーカスできるようにする。クラウドなり、全自動なり、freeeのさまざまな機能は、このコンセプトを満たすために存在する。

freee代表取締役 佐々木大輔氏

 日本の中小企業の多くは1990年代のクライアント/サーバー型システム、SOHOではパッケージ型の会計ソフトをいまだに使っている。こうしたガラパゴス化した業務ソフトの市場に“予告もなくふらっと”乗り込んで行ったのがfreeeだ。インストール不要であらゆる端末から利用できるクラウドならではのメリットと、銀行やクレジットカードを登録するだけで会計帳簿が作成できるという手軽さが受け、今まで会計ソフトからほど遠かった人も含め、幅広いユーザーの支持を獲得。2013年末からは確定申告向けの機能やサービスを拡充し、リリースから約1年で利用事業所数は6万件を突破した。

 佐々木氏によると、こうした快進撃はある意味予想通りとも言える戦略の成果と、いい意味での誤算が重なった結果だという。

 戦略の成果だったのは、「いいプロダクトをオンラインで展開する」という当初からのこだわり。当たり前のようだが、宣伝販促や営業活動に焦点が当たりすぎ、肝心の製品に、魅力を欠いたスタートアップは数多い。その点、freeeは「正直、営業活動はほとんどしなかった。いいプロダクトにフォーカスすることで、開発もスピード感を持てたし、料金体系でも納得いくモノを提供できた」(佐々木氏)とのこと。また、スタートアップの悩みの種である人材の確保といった面でも苦労はなかったとのこと。佐々木氏は、「目先の利益にこだわるのではなく、世の中を変えるようなインパクトを与えていこうというビジョンがメンバー内で共有できた」と、ソーシャルアプリやゲームとは異なるコンセプトの元、開発者をレバレッジできたようだ。

 そして、ユーザーの要望に合わせて機能強化を図っていくことで、製品もどんどん育っていった。佐々木氏は、「Webブラウザも最初はChromeだけでいいと割り切ったけど、今ではFirefoxやInternet Explorerでも使えます。対応する金融機関も当初は8で、今は1600。請求書や申告周りの機能もスピーディに盛り込むことができた」と振り返る。先日はいよいよiOS版に引き続き、Android版もリリース。邪念なくブラッシュアップを続けたことで、順調なスタートダッシュが切れたようだ。

4月にはAndroid版がいよいよリリースされ、モバイルでも会計処理が可能に

快進撃を支えたいくつもの「いい誤算」

 一方で、いい意味での誤算もあった。Windows XPのサポート切れや消費税増税といった追い風に加え、佐々木氏が印象深かったのは、スタートアップ向けのデモ大会「Infinity Ventures Summit 2013 Spring」で優勝できたことだという。「今まではソーシャルアプリとか、ゲームとか、いわば“セクシー”なものでないと優勝できなかった。でも、会計ソフトなんて地味なソフトが、日本のITの重鎮が集まるスタートアップのイベントで勝つことができた」。そして、このIVPサミットに参加した経営者たちが、こぞってfreeeのビジネスの可能性をブログで書き、業界での認知度が一気に上がったという。

新オフィスには卓球台も。取材時も激戦が繰り広げられていた

 もう1つ快進撃の要因として大きいのは、SNSの存在だ。「最初にリリースしたときは、まずFacebookとTwitterで拡がったので、SNSを起点に有益な情報を発信していこうと決めた。その後に中小企業の課題を『経営ハッカー』というブログを始めた。この結果として、freeeのサイトを見ると、「いいね」の数に驚く。他のIT系企業のサイトのFBページが閑古鳥が鳴いているのと大違いだ。

 この結果として、freeeは単なる“ユーザー”ではなく、“ファン”を得た。freeeに期待し、freeeに未来を見たファンだ。「去年はfreeeを使って青色申告した方が、ライターとして本を作ってくれた。リリースして1年も経っていないソフトで、そんなことはなかなか実現できない。でも、Amazonの確定申告関連の本では、今年ずっと一位だった」と佐々木氏はうれしそうに語る。

スモールビジネスのバックオフィスを任せてもらう存在に

 従来型の会計ソフトの市場に風穴を開けたfreeeだが、そもそもなぜ会計ソフトはレガシー化したのか? Googleでソフトウェアのイノベーションを見てきた佐々木氏は、「既存のパッケージソフトはバージョンアップを重ねて、ある程度完成したところで、進化が止まる。いったんついたユーザーは変化を恐れるので、完成したソフトにイノベーションが起こらなくなる。完成した段階で、コピーが蔓延し、目先の変わったことをやったところにお客を奪われる」と分析する。

エントランスにある書き込み。社風に引かれて出戻ってきた社員もいるという

 とはいえ、freeeの成功はある意味、市場を活気づけたことになる。今後も「弥生」を初めとするパッケージ型会計ソフトや、クラウド型の新興勢力と戦い続けていかなければならない。こうした中、freeeが勝ち残っていくため必要なのは、「進化し続けること」だという。ブルーオーシャン化しつつある市場で、Gmailがいまだにユーザーインターフェイスを改良し続けるように、つねに変わり続ける。「単に真新しいから変えるのではなく、ユーザーのために作るという認識を前提に、freeeも新しいものに挑戦し続ける」と佐々木氏は語る。

 こうした点も踏まえたfreeeの次の目標は、「新しいビジネスを始める際に、経理だけではなく、バックオフィス全部をfreeeがサポートできる体制や信頼感を目指す」(佐々木氏)だという。この対象はスタートアップ企業だけではなく、スモールビジネス全般、あるいは既存のITに執着しない新しい経営者という意味を含んでいる。この方向性は、会計業務の自動化による本業への集中を目標として掲げるfreeeのコンセプトからすれば、明らかだ。

 もう1つの目標はプラットフォームとしての進化だ。もともとfreeeは幅広くAPIを開放しており、家計簿アプリの「ReceReco(レシレコ)」モバイルPOSの「ユビレジ」「Airレジ」、モバイル決済の「Square」など幅広い連携を実現している。今後もより汎用性の高い形で、他のツールと積極的に連携していくという。2014年も期待したい。

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