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「モバイル・ウォレット」は消えてしまうのか?

2014年05月16日 07時00分更新

文● Dan Rowinski via ReadWrite

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Square

苦戦を強いられているSquareなどのモバイル決済はこのまま終わってしまうのだろうか。

Squareは終わってしまうのだろうか。一時はさかんに喧伝されたモバイル決済のSquareは、自社の「Wallet」決済アプリを終了させ「Order」と呼ばれる新たなアプリに入れ替えた。Orderは、お気に入りのカフェやレストランでユーザが事前に注文を入れることができるアプリだ。

数年前、SquareはIT業界において注目の的だった。ツイッターの共同設立者であるジャック・ドルシーが創業したSquareは、一般の消費者や中小企業に向けてスマートフォンにクレジットカード・リーダーを装着するというコンセプトを打ち出した。同社は今年上場する予定だったが、熾烈な競争と損益の拡大などを理由に見送られたようだ。

今Squareは、厳しい状況におかれたIT企業がとる典型的な行動に出ている。既存サービスを終了させ、小手先の戦略とマーケティングででっちあげた新たなサービスに差し替えようとしているのだ。

Recodeのジェイソン・デル・レイによれば、Orderはサービスに加盟している店舗やレストランでの事前注文を可能にする。Squareは最大8%までの手数料を取るとされており、これはストア内でのWallet決済の業界基準2.75%を大きく上回ることになる。

SquareはWalletユーザのサポートを続けながら、Orderへの移行を促していくようだ。

デビュー当時の誇大な宣伝や勢いを失った今、Squareは普遍の事実を改めて痛感していることだろう。「決済ビジネスはそう簡単ではない」のだ。

Squareには、MasterCardやVisa、American Expressのような巨大なユーザ・ベースはなく、色々と試行錯誤できる資本力があるわけでもない。またSquareはPayPalとも違う。PayPalも実世界の商品決済に手を出してはいるが、数十年間に渡ってオンライン決済のデファクト・スタンダードとして君臨している。

Squareは利益率の低い大規模なベンチャー企業で、ビジネスモデルも複雑だ。同社の債務は増える一方であり、特定のマーケットを支配できるほどのコア・サービスすら持っていない。


モバイル・ウォレットは結局「ただのお財布」なのか

誰でもどこでも使えるスマートフォン向けの決済サービスと言われて、パッと思い浮かぶのは何だろうか?

思いつかない?当然だ。

モバイル・ウォレットは2011年に流行した大型のビジネス・アイデアで、同じ年にSquareは同社のWalletを発表している。グーグルがGoogle Walletを開始したのもこの年だ。この両社が人々の支払方法を変えるために注ぎ込んだ投資額は、合計すると10億ドルにもなる(両社の経理報告が正しければ、各々5億ドル程の投資を行っていることになる)。

PayPalも現実世界の取引に使えるモバイル・ウォレットを持ってはいるが、私はそれが使える店舗に今だかつて遭遇したことがない(ReadWrite編集長のオーウェン・トーマスによると、サンフランシスコにあるBravadoという喫茶店ではPayPalのモバイル決済アプリで支払を行えるらしい)。ボストンを拠点とするLevelUp(以前はSCVNGRとして活動していた)は、店舗パートナーに対する低い利用手数料とマーケティングプランを武器に興味深いビジネスモデルを展開しているものの、取引高が小さすぎて現時点ではほとんど目に留まらない存在だ。他にもモバイル・ウォレットを組み合わせたLoopのようなサービスが業界内で一定のマインドシェアを獲得してはいるが、商品が未熟で導入状況もお粗末であり、現実性には乏しい。

SquareのWalletに関しては、私はマサチューセッツ州ケンブリッジの1369 Coffee Houseで毎日のように使っている。このカフェは数年間ずっと現金払いのみだったが、クレジットカード払いに対応するためSquareを採用した。オーナーは、Squareがビジネスモデルを変更し、これまで定額だった利用手数料を取引毎に2.75%徴収するようにしたせいで支払いが月額数千ドルも増えたと私に不満を漏らしている。彼は現在、Squareに変わるサービスを探しているという。

企業家にとっては、モバイル・ウォレットという考え方は非常に論理的で分かりやすいため、この産業は十分すぎるほど成熟しているように思えるだろう。誰もが高性能なコンピュータをポケットに持ち歩く時代であれば、現金やプラスチック製のカードを使わずとも、決済情報もそのセキュアなデバイスに搭載してしまえばいいと考えるほうが自然だ。

しかし、この論理的な企業家精神が古臭い非論理的な業界と混ざり合うとき、問題が起こる。現在の米国を取り巻く決済システムには、既得権益や分裂されたビジネスチャンス、(POSシステムのような)古いインフラストラクチャー、裏取引、激しい競争などが渦巻いている。

その結果が現状だ。人々はこれまで通り皮の財布を持ち歩き、スマートフォン決済と同じくらい簡単に使えるデビットカードやクレジットカードで買い物を続けている。そのためモバイル・ウォレットは大したマインドシェアを獲得できていない。一日に一度くらいは地元の店で使う機会もあるかもしれないが、メインの決済手段にはなり得ていないのだ。この状況がすぐに変わるようなことはないだろう。もっと合理的で使いやすく、コスト・パフォーマンスの高い解決策が登場するまで、Squareなどのモバイル・ウォレットは引き続き厳しい道のりを歩むことになりそうだ。


Squareとモバイル決済についての詳しい情報

・WIREDのマーカス・ホールセンは単刀直入に「Square Walletにはすべてが揃っていた。だがもう終わりだ」と書いている。

・Forbesのスティーブン・ベルトニは「WalletはSquareの未来であり、業界を変えるビッグ・アイディアだった。今ではそれは消えてしまい、迷走するSquareの次の手が読めない」と書いている

・先月The Wall Street Journalは、Squareが2013年に1億ドルの損失を出したと報道している。

・New York Timesのブライアン・チェンは先月、消費者によるモバイル・ウォレットの導入は失敗していると書いている。

・Business Insider Intelligenceは、モバイル決済についてこれまで常に楽観的であり、この点で一貫して間違っている。タイミングの悪いことに、同紙はpeer-to-peerの決済アプリが人気を集めているという記事を出している。


※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちら


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