ドラマとバラエティはコンテンツ化のプロセスが違う?
日本テレビによるHuluの買収が報道され、「ドラマやバラエティのコンテンツが増えるはず」なんて予想や、「日本では米国と違ってペイTVは無理」なんてネガティブな意見があったり…。国内VOD(オンデマンド・ビデオ)やSVOD(定額オンデマンド・ビデオ)は、これからどうなるのでしょうか。
「課金コンテンツ、成功のデザイン」でも触れましたが、アメリカのドラマや映画では、世界でのコンテンツ化権込みで製作費を確保しています。人気作品になりそうなら、1話あたり数億円かけることも。中には1話に50億円かけたなんてテレビドラマさえもあります。
筆者は、日本のバラエティ番組にたまに出演しますが、コンテンツ化のプロセスは、ドラマや映画と少し違っています。放映後に「評判が良かったから」「内容が良かったから」などの理由で、海外配信やオンデマンド・コンテンツ化の相談があります(もちろん、出演料も別にもらえます)。
あたりまえですが、出演者全員の許諾がなければコンテンツ化はされないわけです。収録前ではなく、放映後に再契約する。そのあたりも日本の番組の場合、コンテンツ化が難しい原因になっているのかもしれません。
VODやSVODは過去にさかのぼれる所が新しい
次は、制作側からではなく、ユーザー側から考えてみましょう。筆者はAppleのiTunes storeでよく映画を購入/レンタルします。主な理由は、都会から離れているので、家の近くにレンタルビデオ店がないこと、仕事場が毎回違うので通勤経路が定まらず、どのビデオショップの会員にもなれないことなどです。
一番の理由は、iTunes storeはインターフェイスが優れていて、新作、旧作、ランキング、他のユーザーのコメントが見やすく、購入/レンタルの動機(クリック)につながりやすいこと。映画監督や俳優についてあまり詳しくなくても、直近のランキングや「面白い」「イマイチ」といったSNSに似た評価を参考にすれば、選択ミスで後悔することがないからです。
そして、最新作を観た後、思わず旧作を観たくなっても、すぐに観られる部分もVODやSVODがテレビとは違う所。アグリゲーター(AppleやHulu、YouTubeなど)にコンテンツがあれば、延々と過去の作品にさかのぼれるところも、今までにない特徴です。
これからの課金モデルの成功のポイント
日本の課金コンテンツが上手くいくかどうかは、配信側の都合よりも、ユーザーのニーズやウォンツに対応できるかが鍵。以下のような成功のポイントだと筆者は推測しています。
・S/VOD利用は地理や在庫に依存する
日本映像ソフト協会によると、レンタルビデオショップの店舗数は90年末の1万3529店をピークに12年末には3648店と約1/4まで減少。通学や通勤で使う駅の側にレンタル店や量販店があるだけでなく、見たい作品の在庫が必要。「ビデオを探す」というプロセスをいかに簡略化できるかがS/VODの鍵になる。
・プラットフォーム(デバイス)を抜きにしては考えられない
ユーザーのライフスタイルは人それぞれ。帰宅中にスマートフォンでプレビューや評判を見て作品を決定したり、iPadやノートブックを寝室に持ち込んで映画を楽しむ。書斎のデスクトップやリビングのスマートテレビで映画を観る人もいるはず。リモコンで操作するのか、マウスで操作するのかでインターフェイスも違ってくるはず。
・無料か有料かは、ユーザーの「時間のコスト意識」による
ネットで「時間をかけて探しても無料の動画がいい*」というユーザーもいれば、観たい映画やドラマを「数秒で探せるなら500円払う」というユーザーもいます。ユーザーの時間へのコスト感覚がテレビ番組や無料動画からS/VODへの誘導の鍵になるはず。(*違法アップロードのことではありません)
ニュース報道のように「今を見る」ならテレビや無料動画サイト。ドラマや映画のように「最新作」や「旧作」を今すぐに見るならS/VOD。そんなニーズと「価値のあるコンテンツを見たい(ハズレたくない)」というウォンツを上手く実現すること。それこそが、S/VODなどの課金コンテンツの成功の鍵だと筆者は考えています。
私事で恐縮ですが、GREEで好評配信だった「マジックが誰でも楽しめる」ウェブマガジン『なかマジ』。ニコニコちゃんねるに続き、ビジスパからも配信されることになりました。サンプル動画もありますので、ぜひチラ見していただければ幸いです。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。現在、ビジスパからメルマガ「Magical Marketing - ソシアルスキル養成講座 -」を配信中。
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