このページの本文へ

大谷イビサのIT業界物見遊山 第13回

バックアップ&アーカイブが流行るこれだけの理由

欲しいのは100万IOPSよりも1GB/月額1円切れるストレージ?

2014年03月04日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
edge

昨年、大手が一気に参入したオールフラッシュアレイの競争は、ますます盛り上がっている。しかし、用途や市場環境から考えれば、スピード追求とは対局にあるバックアップ&アーカイブなどの「コールドデータ」を扱うストレージ製品の方が盛り上がるような気がしてしようがない。

ビッグデータ&クラウド化の裏にあるデータ消失の不安

 「ビッグデータ」と言えば、大量のデータを分析することで、売り上げ増に貢献するソリューションを指すことが多いが、単純に企業が抱えるデータ量や種類が拡大している事象を示すこともある。ファイルサーバーの肥大化を中心とするビッグデータ化は、多くの企業で顕在化する実態。ビッグデータブームをかじった上司から「有効活用できるかもしれないから」と依頼され、Webアクセスログや過去のPOSデータまで保護対象となってしまえば、現場の情報システム部はますます大変になる。対処すべきは、ソリューションとしてのビッグデータへの対応より、増え続けるデータをどのように保護するかという点であろう。

 データ保護の選択肢は広い。ストレージソリューションの本質は、言わば「データのコピーを取ること」にほかならない。バックアップは障害やオペレーションミスに対するデータのコピーだし、レプリケーションやDR(Disaster Recovery)なども遠隔でのデータコピーだ。データの検索を可能にし、改ざん検知を実現するアーカイブも、コピーしたデータの活用ソリューション。最近はクラウドもデータの置き場所として認識されているため、API経由でデータをバックアップしてくれる製品も増えている。重複排除や圧縮などの技術を含め、多くのストレージのソフトウェア技術は、コピーをいかに上手にとるかにフォーカスしていると言えるだろう。

 もちろん、システムがクラウド上に載っても、データ保護の重要性は変わらない。先週正式に発表されたWindows Azureの国内データセンターは、リージョン内で三重レプリカ(複製)がとられ、東西リージョンを使うと、データはなんと六重レプリカになるという。人はどこまでレプリカを作れば、安心してシステムを使えるようになるのだろうか?という話ではあるが、クラウドファーストの時代になり、データ保護まで含めて、専門の事業者に預ける傾向が強くなっているのも事実だ。

利用例が想定しやすいバックアップ&アーカイブ

 こうした状況証拠を照らし合わせていくと、今後需要が拡大していくのは、超高速を目指すオールフラッシュアレイよりも、バックアップ&アーカイブを前提とした「コールドデータ」向けストレージなのではないかと思われる。特にデータセンター事業者やクラウドプロバイダーの需要は高くなるのではないかと予想される。

 フラッシュを使った高速ストレージの売り上げは、確かに拡大している。IDC Japanによると、「I/O intensiveストレージ」の2012年から2013年までの伸びは75.4%という驚異的な伸びとなっているという。

 こうした市場拡大を受けた現在のオールフラッシュアレイの性能競争は、ミリ秒単位を競うレースカーの開発競争のようだ。どのベンダーも最大何十万IOPSを謳い、既存のシステムに比べて、何倍速いかをグラフでアピールする。確かにHDDベースのシステムに比べれば、性能の違いは明らか。データベースやVDIなど特定の用途で有効に活用される事例はあるだろう。しかし、レースカーが公道を走れないように、オールフラッシュもまた万人向けの製品とはなり得ない。テクノロジーの面では興味深いが、製品の利用シーンが頭に思い浮かばないのだ。

 その点、バックアップ&アーカイブのストレージは、前述したデータ保護の受け皿として有望だ。データ量は増え続けるが、多くの組織では不要なデータを廃棄する勇気を持てなくなっている。その結果として、際限なくデータのコピーを作り続け、社内で扱えないデータをクラウドに逃がす。業務システムのクラウド化が進めば、当然クラウド事業者のストレージ需要は拡大する。クラウド事業者にとって、データの保護はサービスの根幹を支える必須要件であり、これに対するバックアップ&アーカイブストレージは有効な選択肢になるだろう。

 特に1GBあたり月額1円の「Amazon Glacier」のようなサービスが台頭してきた昨今、国内のクラウド事業者は低価格なストレージサービスの拡充を急ぐ理由がある。IDC Japanが2月27日に発表したレポートによると、2012年からの5年間で国内のStorage in the Cloudは年間平均で30%近い伸びを示すという(国内Storage in the Cloud市場の売上額推移(予測))。とはいえ、現状のストレージサービスの存在感を見れば、AWSにすべてを持って行かれる可能性すらある。営業の現場では、クラウド事業者の担当者から「●●万IOPSはいいから、1GB/月額1円切れるインフラ作れるストレージ持ってきてよ」と言われているのではないかと想像してしまうのだ。

割り切れば、もっと面白い製品が出てくる?

 課題といえるのは、バックアップ&アーカイブストレージに技術革新が乏しい点だ。データ量自体を大きく削減する重複排除の登場以降、バックアップ&アーカイブストレージは「オールインワン化」の方向に進んでおり、ユニークな製品があまり見あたらない。過去の遺物とすら言われた磁気テープの市場が縮小せず、むしろ拡大している理由もここらへんにあるのではないかと思う。

 更新頻度の高いデータを扱うフラッシュストレージと、コールドデータを扱うバックアップ&アーカイブストレージは大きく要件が異なる。いきなり趣味に偏った例えで恐縮だが、超高速・短曲を目指したグラインドコアの始祖ナパーム・デスと最遅・重音を推し進めたカテドラルくらいベクトルが異なっている。元ナパームデスのリー・ドリアンが、カテドラルで成功を収めたように、正しいコンセプトで割り切った製品を作れば、意外なニーズは掘り起こせるのかも。こう考えると、昔の光学ドライブライブラリや安価・低速なHDDのBODアレイなど、再評価されてもよさそうだ。

筆者紹介:大谷イビサ

 

ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。ナパームデスより、カテドラル好き。


カテゴリートップへ

この連載の記事