回答編
あれ? いつの間にコーナー切り替わってたの? お題の説明は……?
先程無事に終わったところです。いやだなぁ室見さん、みんな拍手喝采の見事なオチだったじゃないですか。
そう……だっけ? おかしいわね、どうも記憶が曖昧で。
ま、ま、細かいことはおいといて。説明お願いしますよ。マルチホーミング、これは一体どういう意味でしょう?
……なんか納得いかないけど。ま、いいか。(こほんと咳払い)マルチホームというのは一つの組織が二つ以上のインターネット接続を持つことね。もう少し具体的に言うと、複数のISP接続を準備して冗長や負荷分散を行うこと。
複数のISP接続?
たとえばユーザーのデータセンターをJT&W(*1)とネットエフェクト(*2)、二社のインフラに繋ぎこむ。そうしたらたとえJT&Wのネットワークが全滅してもネットエフェクトでサービス継続できるでしょ? そういうキャリア規模の障害まで加味した冗長化がマルチホームなのよ。
なるほど……って、あれ? でもその場合通信の切り替えはどうするんですか。JT&W側の障害を他社がよろしく検知して通信引き継いだりしませんよね?
マルチホームの場合、通信ポリシーはユーザが決定する。だから全断でなくともJT&W経由の通信がおかしいと思ったら、ユーザー側で接続を切り替えるのよ。キャリア側は基本的に来たトラフィックを運ぶだけ。
そんなややこしい制御……どうやるんですか。
BGP、前回も出てきたでしょ?
ああ……自律システム(AS)間の通信制御。この場合はユーザーが独立したASになるってことですか。
そう、だから基本的にマルチホームは誰でもやれることじゃない。一定の規模と資金力があるところだけできることね。大学とか企業とか。
個人ではできないんでしょうか?
簡易マルチホームってのはあるわよ。DNSの書き換えを使ってブロードバンド回線などを冗長化する技術。これなら機械(*3)一個入れるだけでフレッツと電力系光ファイバを束ねられたりする。ただそれでも機器代で100万以上かかるけどね。
100万! 宝くじでも当てないと無理ですね……。
まぁ普通は自宅のブロードバンド回線なんて年に一~二回程度の障害しか起こらないしね。それを避けるために100万払う人はまずいないわよ。クリティカルなサーバを家に置きたいならそれこそベストエフォート回線なんか使うなって話だし。
なるほど……ちょっと残念ですね。『俺ん家のインターネット回線、マルチホームなんだぜぇ?』とか通っぽくて、自慢したい感じなんですが。
いっそ手動でやっちゃったら? 二本ブロードバンド回線引き込んで、障害が起きたら首振りルータでルーティングを向け変える。これなら単純に回線費用が二つかかるだけだしね。
ほうほう、……えーと、首振りルータ?
回線受けルータ(NAT装置)と別にプロバイダ選択用のルータを一個準備しておくの。で、障害発生時はデフォルト経路をバックアップ回線のNAT装置に変更する。いわゆる交通整理役ね。ほら、こうやるの。……ルータにログインして。……スタティックルート変更! 目標、AS5××1上の敵サーバ。ARPクリア実施、初段ping撃て-!
え? え?
(両目を血走らせながら)続けて"-t"オプションで10000連発開始、サイズを1500に変更、フラッドping……サルボー! 命中! いいわよ、どんどん撃ちなさい! 二番艦(ThinkPad)も射撃開始。ははははは、敵がゴミのようだわ!
またスイッチ入っちゃた-!? ほ、本当予想つかないなこの人。てかフラッドpingって……DoS攻撃(*4)じゃないですか! 何やってるんですか。ちょっと、ちょっと藤崎さん、室見さんを止めて下さい。藤崎さーん!
(*1) 本編に登場する巨大通信会社。国内最大規模を誇る
(*2) 本編に登場する通信会社。所謂NCC(新電電)の一角
(*3) Radware社のLinkproofなど
(*4) サービス拒否(Denial of Service)攻撃。相手機器のリソースを消耗させることでサービスの提供を困難にする行為
【解説】
マルチホーミング:
一つの組織が二つ以上のインターネット接続を持つこと。原則としてユーザーは独立したASとなり異なる複数の上位プロバイダとBGPピアを確立する。運用・管理にかなりの技術・コストが必要なため、特殊な簡易マルチホーム装置で代替することもある。
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