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3年ぶりのハイエンド機「SHURE SE846」

SHURE開発者に聞く、究極イヤフォンはこうして生まれた

2013年05月13日 11時00分更新

文● 小林 久

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干渉を減らすことで純粋なサウンドを追求

── SE535を超えるサウンドを実現する上で、キーとなったものは何か。

サリバン 「やはり革新的なローパスフィルターだ。SE530/SE535を超えるのは容易ではない。やはり我々の素晴らしいアコースティックエンジニアの仕事が驚くべきものだったということだ」

エングストローム 「天才としか思えない。我々は8年前に3Wayのイヤフォンを作りだして以降、4ユニットはいつかと聞かれ続けてきた。しかしそれに取り組むには、作る理由や達成するための前提が必要だった。本物のサブウーファーに迫るパフォーマンスを実現するのが大前提だった。単にドライバーを4基にするだけでは、サブウーファーのような良質な低音は出せない。1kHzを超える高い周波数を完全にカットできず、干渉して音がにごってしまうからだ」

低域用ユニットの音はローパスフィルターを経由、それ以外はストレートにステンレス製のノズルに導かれる

── 高域、中域、低域はすべて異なる経路を通ってノズルに導かれる。干渉は減るだろうが、位相ずれなど別のデメリットはないのか?

サリバン 「ホームシアターなど使う部屋と違って、イヤフォンのユニットは非常に小さな箱の中に収められている。4.5インチ程度の差であれば、フェイズシフトが起こっても聴感上の問題にはならないと考えている」

ノズル、カラー、ノズルインサートの各パーツは分解して、音質調整ができる

エングストローム 「位相差で問題になるのは、むしろ低域が中域や高域にかぶることでお互いの音を打ち消しあってしまうことだ。効率のいいフィルターを使用して帯域をきっちりと分離したほうがいい効果が得られる」

偶然から生まれたフィルター交換のコンセプト

── 試聴してみると、いたずらに量感を追求するのではなく、節度のある良質な低域だった。音決めの判断には誰が責任を取るのか。

エングストローム・サリバン 「私たち(us)だ」

サリバン 「求める音を机上の計算で実現するのは難しい。聴くことが我々のキーフォーカスだ。低域と中域の境界(クロスオーバー)をどこに置くのか。これひとつとっても様々な音楽を聴きながら、少しずつ探っていった」

コンデンサーでハイカットしている中域ユニットに対して、低域ユニットは音量調整用の抵抗が付いているだけで、電機的に特定の周波数をカットするようにはしていない。ローパスフィルターを経由することで中高域を減衰させることで、干渉を防いでいる

── ノズルインサートのコンセプトはローパスフィルターとセットで開発されたのか?

サリバン 「違う。1年ほど前だったと思うが、始まりはアクシデントのようなものだった。革新的なフィルターの開発で、ローパスの問題はクリアできたが、ハイパスについても考えなければならなかった。周波数の高い振動は、距離が長ければ長くなるほど減衰しやすい。それを意図的に応用しているのがローパスフィルターだが、それとは別に高い周波数を減衰させず通す仕組みも考える必要がある。その中で出てきたアイデアが、低域と中高域の伝送路自体を分けてしまおうという考え方だ。

3種類のノズルインサートを入れ替えることで音質調整が可能

 音が伝わる物理的な距離を増やすことで、低域は自然にロールオフさせる。一方中高域は減衰を押さえた最短経路にする。2つの伝送路を用意すれば、最後の出口まで音が混じり合わない。(両耳に当てた指をプシューと拡げながら)SE535と聞き比べれば、低域と高域がブルーアップしたのが分かる」

── 3種類のノズルインサートはどんな素材で、どう違うのか?

エングストローム 「素材はプラスチック(ABS樹脂)だ」

サリバン 「素材を変えている。SE535にもフィルターが入っていたが、目の細かさを変えることで高い周波数を減衰させる係数を変えられる」

── 3種類で最も好きなのはどれか?

エングストローム 「バランスだ」

サリバン 「バランスとブライトを曲によって使い分ける。基本はバランスだが、高域やドラムの情報量が高いソースではブライトも併用している」

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