プロダクツ感ということになると、いい音、いいバランスが重要
―― そこから何ヵ月かして全27曲が揃うと。Eutopiaのマスタリングは本人じゃないんですね。
曽根原 ROVOの益子樹さんにやってもらいました。うちは全部そうです。プロダクツ感ということになると、いい音、いいバランスというのは重要だなと思っているんで。
―― ヒッキーの音はクリップ※3しているのが普通なんですが、マスタリングは苦労されませんでしたか?
※3 レベルオーバーで信号が飽和して歪むこと
曽根原 初めてコンピに入れたときに海苔波形(クリップが連続しているとオーディオエディタで波形を見た時に凹凸のない海苔のように見える)だったので、これはちゃんと話そうと。それで彼の実家に行って泊まって、お父さんとお母さんとお酒飲んで。
―― はっはっは。
曽根原 俺、基本そうなっちゃうんです。椎名もたも家が石川で、契約するのに親御さんのハンコをもらいに行ったんですけど、ホテルまでの道中で「今晩飲みに行きませんか?」って。
―― ヒッキーの家は秋田ですもんね。
曽根原 なんか知らないけど「曽根原さんよく来てくださいました」、ああこんにちは、「どうぞどうぞ」って座ると、普通にきりたんぽ食いながら、最終的に酒飲んでます。
―― それはうらやましい! で、彼の制作環境ですが。
曽根原 彼の家に行ってびっくりしました。モニタリングに使っているのが謎のイヤフォン。ボロボロのZO-3(フェルナンデスのスピーカー内蔵小型ギター)。古いDAW。インターフェースもしょぼいのしかなくて。だけど、この環境を変えたら、こいつは出来ないんだ。じゃあ、単純にクリップを止めさせようと。それでEQのかけ方と波形の見方を教えました。あとは、簡単なミックスと音量についての理論も知ってる範囲で。
―― でもそれで作り方を変えさせるのは難しかったでしょう。
曽根原 「この音じゃないとダメなんです」って彼は言うんですよ。むっちゃ言いましたもん。譲れないところは僕にもありましたんで。それは違うと。お前のその音って、よその家では同じ音で出ないよと。こうした方がいい、ああした方がいいという話をしながら。ミックス変えようとか。それでもマスタリングに持って行ったら「これ凄まじいな」って言われました。
―― でもクリップしていないのに、音の感触は今までとそんなに変わってないですよね。
曽根原 むっちゃ真面目にやりましたから。ヒッキーはもう水を得た魚のように、ここはああしてこうしてと。でも説得が一番大変だったというか、なにしろコミュニケーション取るのが一番大変でしたよ。
―― あ、それは分かります。
曽根原 ホントに。こいつと同じ言語を探すのにすごい時間がかかった。対面したら簡単に見つかって、会話もグルーヴしていったんですが。そして最終的には……きりたんぽですよ。
(次回はヒッキーP本人、大高丈宙さんのインタビューです)
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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