四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第109回
DSD形式のネイティブ再生ができるDS-DAC-10の開発者インタビュー【後編】
音がいいっていうのは、やっぱりたまらないんですよ
2012年12月15日 12時00分更新
「DS-DAC-10」を発売したKORGはなぜDSDにこだわるのか。企画開発担当者にインタビューを敢行した。前編の『楽器メーカーが「PCで最高の音を聴ける」作品を作ったわけ』と合わせてお読みください。
DSDが音の再現性に優れている理由
DS-DAC-10は何故ヒットしたのだろうか?
DSD形式が注目されるのは、PCMに比べて再現性が優れているからだ。その理由として信号処理の単純さが挙げられる。
現在の一般的なA/Dコンバーターは、ΔΣ(デルタシグマ)変調 という方法を使い、2.8224MHzのサンプリングレートでアナログ信号を1bitのデータとして記録している。そのサンプリングレートを間引いて、音量のデータを与えたのがPCM形式である。たとえばCDならサンプリングレートを64分の1の44.1kHzに落とし、その代わりに16bit(6万5536段階)で音量を表現している。
それに対してDSD形式は、ΔΣ変調で得た1bitデータをそのまま記録し、再生できるようにしたものだ※1。サンプリング周波数を高くとることによって、1bitでも十分なS/Nで記録できる。CDに比べてデータ量は大きいが※2、サンプリングレートを間引いていないので、時間軸方向の再現性で優れているのだ。
※1 このためマルチビットのPCMに対し「1bit(ワンビット)」と呼ばれることもある。「DSD」という名前はソニーとフィリップスが1bitの記録形式に付けた名前。
※2 ビットレートで比べてみると、PCM形式のCD(44.1kHz/16bit/2ch)は1411.2kbps、同じくPCM形式24bit/96kHz/2chは4608kbps、DSD形式2.8224MHz/2chは5644.8kbps、PCM形式24bit/192kHz/2chは9216kbps。
結果として、微弱信号や高周波の再現性が改善され、音像の立体感が違ってくる。その差はデスクトップスピーカー程度のオーディオセットでもわかるくらい。つまりオーディオマニアはもちろん、そうでない一般のリスナーにとっても、音楽体験を変える契機になり得る技術なのだ。
問題はDSDのファイル容量の大きさ。しかし、高速なインターネットがあり、大容量のストレージが安く確保できる今、それはハンデにならない。まだタイトルこそ少ないとはいえ、「e-onkyo music」「OTOTOY」のような配信サイトでは、DSD形式の音源も徐々に増えているが、CDを超える音を求めているのは、もちろんミュージシャンやエンジニアも同じ。DSDレコーダーから出発したKORGのエンジニアは、そのニーズや可能性について誰よりも先に知っていたはずである。
インタビューの後編は、楽器メーカーがDSDにこだわる理由について聞いていく。
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