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低価格な汎用品を用いたDIYな取り組み

畳部屋をリノベート!NTTコムウェアの排熱式データセンター

2012年12月10日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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NTTコムウェアは、11月にサービス開始した「排熱式データセンター」を報道陣に公開した。PUE(Power Usage Effectiveness)1.02というきわめて高いPUE性能を誇る同データセンターの秘密は、贅を尽くしたハイテク設備ではなく、低価格な汎用品を組み合わせたDIYな取り組みであった。

リノベーションでPUE1.3を実現してきたNTTコムウェア

 排熱式データセンターは、チラーなどの冷却装置を一切使用せず、ICT機器から発生する熱を屋外に排出する外気冷却方式を採用するデータセンター。消費電力の大きな部分を占める空調機器の電力を削減することで、省エネを極限まで追求しているのが特徴だ。1年の実証実験を経て、11月にサービス開始されたばかりの排熱式データセンター建設の背景や歴史について、NTTコムウェア サービス事業本部 SmartCloud推進部門 部門長 尾西弘之氏が説明した。

NTTコムウェア サービス事業本部 SmartCloud推進部門 部門長 尾西弘之氏

 NTTグループのシステムインテグレーターであるNTTコムウェアは「SmartCloud」のブランドのもと、クラウドサービスの基盤となるデータセンターを国内6カ所で運用している。2009年以降、同社が増床しているデータセンターにおいて取り組んでいるのが、徹底した省エネ化とコスト削減だ。吸排気の分離や電力の見える化、LED照明の採用などさまざまな施策により、PUE値1.3を実現した。その実現には「ホームセンターで買ってきた資材を用いて、温湿度測定機器を作って、データセンター内の温度を測定。暖気と冷気をビニールカーテンで仕切って、両者が混ざらないようなキャッピングを進めた」(尾西氏)などの取り組みがあったという。

PUE1.3を目指すNTTコムウェアのデータセンター

 しかも、省エネデータセンターを新たに建設するのではなく、既存のサーバールームを再設計(リノベーション)することで、工期短縮やコスト削減を図ってきたというのが大きな特徴。「ラックの撤去や入れ替えなどが多いと、いわゆる無駄の多い『虫食いのデータセンター』になる。NTTコムウェアではこれらをリノベートすることで、データセンターの効率化を進めている」(尾西氏)。

 しかし、今後10年間でデータセンターで管理する企業のデータ量は50倍に跳ね上がり、消費電力も約6%/年という伸び率で増えていく。こうなると、省エネ技術や仮想化がいくら進化しても、PUEの改善は望めない。こうした背景から今回導入されたのが、冷却装置を利用しないことで省エネを極限まで追求した排熱式データセンターだ。

排熱式データセンターに至るまでの発想の転換

 排熱式データセンターの実現に至るまでは、冷却の考え方とデータセンターのスペックについて大きな発想の転換があったという。

 従来のデータセンターは、一定の目標温度のために、どのように空調機を動かすかを中心に空調の設計を行なっていた。目標温度を実現するために、空調機のキャパシティを想定しつつ、温度ムラ(ホットスポット)を防止。冷却効率を上げることで、空調機の吹き出し設定温度を引き上げるわけだ。そして、上げた温度分がそのまま省エネにつながる。

 一方で、排熱式データセンターは「目標温度を設定するのではなく、許容範囲に収まっていればよいという考え方で作った」(尾西氏)という。具体的には推奨温度範囲と外気温との差が大きい時期を暖気と冷気の混気やファン制御で乗り切ろうという作戦だ。また、許容範囲を拡げるため、サーバーやストレージ40℃対応の製品を選択した。

40℃対応のサーバーやストレージを採用し、許容温度に収まるようにした

 もう1つはデータセンターの階層化という概念だ。従来のデータセンターでは、通信経路や電力線を冗長化するとか、1つのデータセンター自体の可用性を挙げることに注力してきた。しかし、NTTコムウェアでは、モジュール型データセンターの概念を取り入れ、データセンター単体ではなく、複数のデータセンターで信頼性や可用性が担保されることが今後重要になってくると考えた。「次世代データセンターは、仮想化の技術を用いることで、マルチサイトのデータセンターでリソースを最適化する形となる。可用性の配分を見直し、全体で信頼性を実現すればよいのではないか、という方向性だ」(尾西氏)とのこと。排熱式データセンターは、こうした全体最適化の中で、可用性より、省エネやコストを重視するデータセンターに位置づけられるわけだ。

仮想化の導入により、複数のデータセンターで可用性や信頼性を向上させる

(次ページ、従業員用の畳部屋を排熱式データセンターへ)


 

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