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保存期間は3億年? 最強のメディアの正体を日立製作所に聞く

2012年11月19日 12時00分更新

文● 美和正臣 撮影●小林伸

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1000℃で2時間保つ記録媒体はコレだけ!

――そもそも、この技術研究を始めたのはいつなんですか。

渡部:2007年に研究を始めて2009年に最初の発表を行いました。

――きっかけは何だったのでしょうか? こういった「超長期間保存できる媒体を作ろうぜ!」みたいな要求があったのでしょうか。

渡部:私は元々半導体メモリを研究していました。新しいテーマを探そうということでいろいろな場所でヒアリングした結果、恒久的なデータの保存にはニーズが結構あるけれど、手段がないということを知りました。半導体では長期保存に必要な耐熱性や耐水性を実現するのが困難なため、石英ガラスでの記録がいいのではないかということで始めたんです。

――どういった理由で半導体はダメなんですか。

渡部:半導体では高い湿気に弱く、また、電気的な接点や、チップ内部の配線や微小なトランジスタがとても1000℃といった温度では耐えられません。

――ああ、高温というのが問題なわけですね。

渡部:ええ。長期保存では、火事などへの耐久性も大切です。半導体では、チップ内部の金属配線がやられてしまいます。また、最近は低温プロセスで製造されているため、トランジスタの特性にも影響が出ると思います。そもそも周りにハンダが使われていたら、それからやられてしまいます。

塩澤:1000℃で2時間保つ記録媒体は、これ以外に恐らく存在しないですね。

――2009年のものは非常に記録密度が低いものでしたが、その点はどう考えていたのですか?

渡部:あくまで原理実験でしたので、記録ドットのピッチは100μmと粗いものでした。再生装置もそのあたりの部品を買ってきて手作りしたものでした。粗いピッチながら多層でもデジタルデータが読めること、加熱試験の結果から、他にはない寿命が期待できることを確認したのが、2009年の段階でした。

――この3年間にどんなブレイクスルーがあったのでしょうか?

塩澤:大きく進歩したのは記録技術ですね。以前は外部業者に委託して原理実験用に記録をしてもらいましたので、私ども内部の方では記録技術を持っていなかったんです。今は京都大学と組んでやっています。

渡部:彼のバックグラウンドが光ディスクなんですよ。彼が、そのノウハウを適用して、高密度の記録条件を最適化しました。私は画像処理の知識を活かして再生技術を担当しました。

――こういうのって普通の光ディスクと比べるとまったく違う世界だと思うんですけど、最初にガラスに記録するという事を聞かされたときにはどのように感じました?

塩澤:最初は戸惑いましたが、いろいろやっていくうちに光ディスクの技術を適用することができることがわかりました。例えば、BDでは4層まで記録層があるのですが、層間距離をどうすればいいかとか、1層あたりの記録密度をどう詰めればいいかという事が問題となります。

――今までの既存の光ディスクの記録を考えるならば、そんなには難しくないという感じなんですか?

塩澤:光ディスクのバックグラウンドが十分あれば、それを適用することが可能であったということです。そこは蓄積がございますので、それを適用した形です。

――なるほど。記録のところで一番難しかったのはどういうところなのでしょうか。

塩澤:記録の最適化です。記録するときにまず、パワーをどうすればいいかとか、1層あたりドットとドットの間隔をどのくらい縮められるのか、縮めるためにはどうすればいいか、そういったことが難しかったですね。多層化にあたっては、層間距離をどうすればいいのかなどです。

 層の間を詰めると、層間クロストークと呼ばれる、他層からのノイズが問題となります。層間距離を変化させた際に、再生したい層の信号量に対してこのノイズ量がどれくらいなのかを定量化しました。

――現在は4層ということですが、1層あたりのガラスはどのくらいの薄さなんですか。

塩澤:それは……こちらが試作サンプルです。

――小さい(笑)。これ、今日の機材で撮影できるかなぁ。

塩澤:厚みが2㎜のものです。サンプルですので、これが製品のサイズになるというわけではありません。そのまま手で触れていただいて結構ですよ。

――これで1層なんですか?

塩澤:いいえ、この中に4層入っています。

――えっ! この中に4層入っている?

塩澤:ドットの間隔が2.8μmですので、目には見えないんです。

――これ、すでに記録してあるんですよね?

塩澤:ええ、記録してあります。顕微鏡で見ると見えるのですが。

渡部:前回は17層ありましたが、先ほどお話したように層内のドットピッチが100μmでした。

――2009年に発表されたものは、ギリギリ目のいい人なら見えたとかそういうことはないですか?

渡部:前のものは、目で見ても1個1個分解はできないですけど、強いライトを当てると全体が白っぽく、そこに何かあるなというのはわかったみたいです。

――2㎜厚ということは、一層あたりだいたい0.5㎜、っていう感じですか?

塩澤:いいえ。層同士の距離は数十μmです。

渡部:ドットピッチも記録領域も小さいので、肉眼では判別できないと思います。

塩澤:テストサンプルのため、全面に記録しているわけじゃないんです。

――これは普通にガラスを4枚貼り付けているわけですか?

塩澤:違います。1枚のガラスです。記録するときに、集光位置を変えています。

渡部:小さな板ガラスだと思ってください。

――あ、勘違いしていました。貼り合わせているんじゃないんだ。集光位置をこの2㎜の間で変えることによって記録しているわけですか。

渡部:1枚の均質な材料で出来ていることが丈夫なポイントなんです。

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