このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

四本淑三の「ミュージック・ギークス!」第105回

冨田勲「イーハトーヴ交響曲」世界初演公演インタビュー【前編】

初音ミクと宮沢賢治に共通するもの

2012年11月10日 12時00分更新

文● 四本淑三

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

初音ミクも宮沢賢治も「寿命」が長い
これからも発展していくんじゃないか

―― 以前からボーカロイドにはご興味はありましたか?

冨田 ええ。モーグ・シンセサイザーでしゃべらせようと、散々苦労してきていますから。まあしゃべらなかったけれども。

Image from Amazon.co.jp
惑星

―― 「惑星」の冒頭に出てくるロケット発射の秒読みなんかは、俗に「パピプペ親父」なんて言われましたよね。

冨田 うん、でもまあ、あの程度ですよ。パ行でいったら、パ行しかない。意味が分からないですよね。そうしたらNHKのクローズアップ現代で初音ミクをやっていた。NHKだから商品名は言わないはずですけど、言っちゃってるのね※3。それで作曲者が理想とする歌に調教できると。それはやっぱり興味持ちますよ。宮沢賢治の世界というのは、現実とちょっと離れた異次元的なところがあるんです。そこに初音ミクが出てくるのは、すごく面白い気がしたわけです。

―― 冨田さんといえば、モーグを使った最初の作品から、ヒューマンボイスを合成して使われていました。合成音声で歌う初音ミクというのは、冨田さんからどう見えるんでしょう?

冨田 初音ミクの場合は実際にヒューマンボイスですからね。それを抜き出して、一つ一つの音に表情を付けて、あたかも実際の歌手が歌っているかのような音に近づけることもできる。あるいは、そこから離れた歌い方もできるわけですよね。そういう手法も入れた一つの世界というものを作っていかないと、すぐに飽きられちゃいますよね、アイドルの歌と同じで。でも、初音ミクの寿命は長い。これからも発展していくんじゃないかという予感を、この歳になった僕ですら感じるし、その辺が宮沢賢治と似ているところで。と、僕は勝手に思っているんですけど。

―― 初音ミクの声やキャラクターに抵抗はなかったですか?

冨田 僕はあんまりないなあ。そんなこと言ったらドビュッシーをモーグ・シンセサイザーで演るというということで、ぶっ叩かれましたからね。「あの名曲をこんなもので汚すとは何事ぞ」みたいな。

―― クラシックの聴き手の中には、生楽器のオーケストラに、電子楽器のオンド・マルトノでも入ったりすると、ちょっと違うなあと言う人もいるわけですけど。

冨田 そういう人は、僕は無視しています。

そういう人は、無視しています。

―― あはははは!

冨田 そういう分け方というのは、僕はしたことがないんです。これはシンセサイザーで人工的なものです、これが伝統的な楽器です、って区別はないんですよ、僕の中に。電気の音といっても自然に存在するものなわけでしょ。今日は静かだけど、ここ(冨田さんの軽井沢の別荘)も午後になると雷がやって来るわけですよ。あれは電子音ですからね。リストがピアノコンチェルトの中にトライアングルを入れただけで、あんなオモチャを入れてと散々叩かれたわけですからね。そういう人というのは、必ず出てくるわけですよ。

―― じゃあ誰が何を言おうが、もう。

冨田 僕は僕ですから。電子音も自然音だし、どういう形で発生したものであろうが、耳に聞こえるもので。最終的には演奏する人の気持ちの問題じゃないですか。そこで音を発する楽器の問題ではなく。

―― ただ、オーケストラと初音ミクの同期ということで、僕がもし冨田さんの立場だったら、リハを重ねて音を確認してからじゃないと、不安で曲も書けないだろうと思うんですが。

冨田 それはできないんですよ。僕もサウンドクラウド※4という、ヘリコプターまで使って音を出すイベントをやりましたけど、あれだってテストできないんですよね。皆が住んでいるところが舞台になっちゃうわけだから。上からスピーカーで音を出したら「あれはなんだ!」ってことになる。今日はこういうお祭りだからと、皆そういう気持ちで許すわけで。

―― なるほど。それじゃあ、ぶっつけ本番は慣れていらっしゃる?

冨田 だって、それしか方法がなかったから。そんな試行錯誤をやっていたら、自分の一生、やる時間が限られていますから。僕もここまで来れば、それはもう一発勝負ですよ。ただ、僕はいまそれよりも、頭がいっぱいになっちゃってね、シンフォニーとしての全体構成が、全然進まなくて。

―― 冨田さんでもプレッシャーを感じてしまう?

冨田 プレッシャーともまた違うなあ。結果的に来た人たちが何を感じてくれるかということですよね。本当に素晴らしい演奏というのは、見ていて神が降りてくるみたいな感じの時がありますよ。指揮者が凄くて、演奏者も凄くて、観客もそれに引きこまれて。あの瞬間というのは天孫降臨ですよね。あれは不思議な超常現象だと思っているんですが、そこまで行くように近づけたいと思っているんです。それだけですよ、譜面書きにとっては。


※3 NHKと初音ミク : 2012年2月28日放送の「思いが伝わる声を作れ ~初音ミク 歌声の秘密~」。ちなみに商品名に関しては、番組ブログで視聴者からの質問を受け「商品名は絶対NGと決まっているわけではなく、ニュース性や商品の特殊性、さらに番組の性格など、総合的に判断して、その都度、決めております。」という回答が投稿されている。

※4 サウンドクラウド : 奏者を移動する船の上に置いたり、上空のヘリコプターから音を出すなどして、屋外で立体音響を実現したコンサート。1984年にオーストリアのドナウ川で行われた「宇宙讃歌」以降、1986年のニューヨークのハドソン川「地球讃歌」、1988年の長良川「人間讃歌」など、これまで世界各地で行なわれている。

(後編につづきます)



著者紹介――四本淑三

 1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。


前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

最新記事

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン