懐疑的な反応に「やってみなけりゃわかりません」
―― 前もって女性層の反応を確かめる目的もあったんですね。
尾崎 「僕自身のなかには、早い段階から舞台化をやりたいという想いがあったので、着ぐるみと舞台化がすぐ結び付いたんです。でも正直言うと、舞台化にまったく興味ない人もたくさんいて、当初は内外からすごく懐疑的な目で見られていました。最初発表したときは、もう総スカンだったと思います」
―― そうなんですか?
尾崎 「個人的には、TIGER & BUNNYの企画を立ち上げたときと同様の既視感があって、ちょっと面白かったですけどね。『敢えてリスクをおかす必要はないのでは?』との意見も少なからずいただきました。もちろん作品や僕自身のことを慮ってくださってのことなんですけど」
―― へええ!
尾崎 「しかし僕は舞台も好きなんです。ビジネスとしての可能性以前にクリエイティブの部分で、ストーリーを伝える手段として、大きな価値を見出してます」
―― 普遍的であり、古くからある手段でもありますね。
尾崎 「そうです。アニメーションは、表現の元を辿れば歌舞伎のような日本古来のライブエンタテインメントからスタートしています。僕にとっては原点回帰というか、価値ある伝え方なのです。
そういった自分自身の想いやTIGER & BUNNYプロジェクト全体における舞台化の意義などをTwitterで発信させて頂きました。最後は『やってみなけりゃわかりません』と(苦笑)。
実際、チケット募集をかけたところ、キャパの約1.5万席に対して延べ30万以上もの申し込みがありました」
―― 熱いエピソードですね。そして先ほどのお話によれば、生で観ることができない方々には、ライブビューイングという手段があるわけですね。
尾崎 「はい。話は少し戻りますが、ファンの方々も最初は舞台化に反対する声が多かったと思うんですよ。二次元は二次元のままにしておいて欲しいという」
―― そういう人は多いですよね。
尾崎 「夢を壊して欲しくない、それは僕もよくわかるし、(反対される)覚悟はしていたんです。全員が全員、諸手を挙げて賛成してくれるプロジェクトなんて、ありませんから。
ただ、やっぱりTIGER & BUNNYはオリジナルだし、今までとことんチャレンジしてきたし。どうせ無理だろうって言われ続けてここまできたので。
舞台化プロジェクトに関しても、ファンをがっかりさせないクリエイティブであったり、仕組みを作って提示すれば、受け入れてもらえるという希望は持ってたんです。それはなぜかというと、僕自身がTIGER & BUNNYの第一のファンなので。自分ががっかりするようなことをするわけがない。そこは信用してもらうしかありませんでした。
舞台化宣言の後、すごくありがたかったのは、『プロデューサー自身が言うんだから、信じてみようよ』というファンが沢山いてくださって、やってきた甲斐はあったなと思うとともに、いよいよがっかりはさせられないなというプレッシャーも感じました。キャスティングには一番気を遣いましたし、実際苦労しましたね。結局、ファンの心配の多くはそこにあるので」
―― そうですね。
尾崎 「それこそもう半年近く、胃が痛くなるぐらい色々キャスティングを考え、実際に動き、オーディションもしたりして最終的に辿り着いた結論が、主役2人は声優さんでいこうと。お2人とも、舞台出身の役者さんですし。
でもこれは計算していたわけじゃないんです。アニメのキャスティング時に、いずれ舞台にしたいな、じゃあ舞台経験ある人を……とまでは、さすがに計算しておらず(笑)。実際、舞台化に際して、JAEさんはじめ関係者の方々とは声優さんではない普通の役者さん想定で話を進めてましたから。
ただ、アニメを作っている最中から、平田さんと森田さんってお2人とも舞台役者なんだよな、という認識は、僕のなかにずっとあったんです。言い方を変えると、『やっていただきたいとお願いすれば、できちゃうかもしれないんだよな』っていう。
あと時系列上、ちょっと前後してしまうんですが、作品の企画開発中から、大型ロボットを出さなかったのも、やっぱりそこ(舞台化ができればいいな)を若干なりとも意識した部分はあります。大型ロボットを出してしまうと、舞台上での表現が極めて制限されてしまいますから」
―― たしかに。
尾崎 「今の技術と通常の予算規模では仕方がないんですね。そういった制約から自由になりたかったので。とはいえ、だから等身大のヒーローにしたわけじゃないんですよ。あくまでも付随要因であって後付けとも言えます。大型ロボットではなく等身大スーツにした理由は別にきっちりとありますので。ここを正確に伝えないと、また『うまいこと言いやがって、そんなわけないやん!』って言われてしまいますから(笑)」
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