劇場版公開日にもイベント&ライブビューイング
―― 9月22日には劇場版が公開します。
尾崎 「その初日に、舞浜アンフィシアターで『TIGER & BUNNY -The Beginning- WORLD PREMIERE(ワールドプレミア)』という大型イベントを計画しています。普通、映画公開初日に(初日挨拶とは別に)この規模のイベントなんて、正気の沙汰じゃないんですけど(笑)。
内容を一言でいうと、『超豪華な舞台挨拶付き、ヒーローショーありアーティストライブありの、映画を“一緒に”観ようぜイベント』です。劇場版の上映が約1時間半、その前後にヒーローソングやアーティストライブ等を交えます。計4時間、映画を一緒に観て楽しみ尽くそうというイベントです。
さらにその模様を、初日を迎える全国110超のスクリーンにライブビューイングで飛ばします。本当は4時間あれば本編を2~3回まわして、そのぶん各興行主さんは興行収入を稼げるのですが。
儲ける云々、利益率云々よりも、むしろ1つの仕掛けとして話題になってほしい。これは間違いなく誰もやったことがなくて、松竹さんとティ・ジョイさんも最初は頭を抱えておられましたが、最終的には無理を聞いていただきまして。両社さんには本当に感謝してます。
なぜこんな内容なのかと言えば、TIGER & BUNNY自体が、つながっている感をもった、空気を共有することでここまで急速に育ってきたコンテンツだからです。劇場版を打ち出す機会に原点――僕にとってはホントに出発点なので当たり前の話なのですが――に立ち返ろうと。
映画館での鑑賞そのものがすでに、つながっている感を十二分に感じられる体験であることは理解していますが、よりイベント感・お祭り感を出して、一般の人たち、アニメを観たことがなかったり、タイバニを全然知らない人たちにも、その存在をちょっとでも知ってもらいたい。
『なんか変わった仕掛けをする作品だな、ちょっと観に行ってみようか』という具合に(笑)。これは企業のプロダクトプレースメントをやったときと同じような発想ですね。
さらに、ワールドプレミアそのものを、海外にも同時配信したいと思ってます」
―― おお。
尾崎 「地球の裏側は時差の関係でやるつもりはないのですが、アジア地域はできるだけやりたい。しかも、この劇場版は全世界同時公開を目指してます……」
―― それは快挙ですね。
尾崎 「かつてギャガが配給した映画『ファイナルファンタジー』は、和製のCGアニメで全世界公開でしたが、実質的にはハリウッド映画なんですね。日本のアニメ映画で、世界同時というケースは僕の知る限り、ないと思います。
今回は、日本のみならず香港、台湾、シンガポール、韓国、マレーシア、タイといったアジア圏。そして英語圏とヨーロッパ1、2カ国ぐらいカバーすればおおよそ全世界と言ってもいいのではないかと。実現できるかどうか、まだわかりませんけど」
自ら「売り込んだ」カラオケ
―― さて今回のインタビュー開始前に『ぜひ聞いて欲しい』とリクエストいただいたのがカラオケ展開についてでしたね。
尾崎 「そう、僕すごく好きなんですよ(笑)。カラオケもビジネス面から言ってしまえば利益率はそれほど高くない。でも、歌う立場からすると、アニソンを入れたら、やっぱり画面にはそのアニメが映って欲しいじゃないですか!」
―― はい、確かに。
尾崎 「その想いだけなんですよ。TIGER & BUNNYのオープニングとエンディングの主題歌が上がってきたとき、すごくいい曲で『これはもう、僕自身がカラオケで歌いたいっ!』と。そして当時はライツ営業部長というカラオケ映像許諾の責任者という立場でもあったので、その権限を活かして、実際にライセンシーさんにお願いしたんです」
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―― 尾崎さん自ら営業をかけた?
尾崎 「実際に動いてくれたのはうちの優秀なスタッフですけど。個別楽曲を“是非に!”と売り込むのは珍しいケースかもしれませんね」
―― 普通はあちら(ライセンシー)からですし、こっちから話を持って行くと、ちょっと交渉の面で弱くなりませんか……。
尾崎 「信頼関係のあるライセンシーさんなのでその辺りは大丈夫です。ただ、アニメの背景映像そのものは、カラオケ会社さんからするとそれほど旨味があるわけではないようです……。
最近、アーティストさん本人が登場するカラオケ映像はロイヤリティフリーが多いみたいですから。きっと宣伝・タイアップ扱いなんでしょうね。
となると、カラオケ会社さんからすれば、無償で本物を使えるアーティスト映像のほうが、ね。ロイヤリティが必要なアニメの映像はどうしても優先順位が下がってしまう。でも、アニメ映像で歌いたいというお客さんの声もありますし、アニメ映像が豊富、ということそのものが差別化にもつながりますから、見直されてきてはいると思います。
ただ、まだ世に出て間もないオリジナルアニメであるTIGER & BUNNYのアニメ背景映像がかたちになるまでには、現場の相当な頑張りと各方面の理解と協力が不可欠でした」
―― いまの人気を考えると信じられない話ですね。
尾崎 「様々な方々のご協力を頂きながら、そのうち作品も大きなヒットになり、たぶんお客さんの声もあったのでしょう、最終的には第一興商(DAM)さんがオッケーしてくださいました。
そして実際、ファンの皆さんがDAM導入店舗に駆け付けてくださった。結果的に、第一興商さんにも喜んでいただけて良かったです。僕も気持ちよく歌えるし(笑)」
―― カラオケのライセンスのやり取りを、エグゼクティブプロデューサーが指揮するというケースは、前代未聞ですよね。
尾崎 「これはもう、いちファンとして『こういうものがあればいいな』という気持ちからですね。実際『キターッ!』って思っていただけたファンの方々も多いんじゃないでしょうか。カラオケのアニメ映像のニーズがいかに高いかということは、僕自身ユーザーとして、すっごくわかっているつもりですので。絶対需要があると確信していました」
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