脚に企業ロゴを貼ってない理由
尾崎 「実際、声優さんが舞台出身であるという話も含めて結果論だし、純粋にラッキーだったのかもしれません。ただ、そういった要素を含んでいるのであれば活用したほうがいいよね、と。チャンスや運を活かせるかどうか、結局そこには、ある必然性であったり“意志”が介在するわけで。
ですから等身大の職業ヒーローをやろうと思ったのはクリエイティブやビジネス戦略上の理由からですが、同時に、設定が固まった時点で『あっ、舞台化しやすいな』と思ったのも事実なんですよ」
―― 着ぐるみそのものも、結構なインパクトがありました。
尾崎 「特撮ファンとアニメファンは、必ずしも重なっていない=普段アニメを観ない人たちも大勢いますが、舞台化に伴う一連の告知を通じて、TIGER & BUNNYそのものに興味を持ち始めていただいている手応えがあります。舞台も二次的な展開というだけでなく、新たな入り口、ウィンドウになりうると考えています」
―― なるほど。ところで、アニメのヒーロースーツに配された企業ロゴはそのまま舞台でも登場するのでしょうか?
尾崎 「そうです。舞台も基本的には同じロゴですが、もし再演等が可能なら、将来的には……舞台オリジナルのプレースメントをやってもいいと思っています。じつはCG技術的かつ時間的制約によって、アニメでは脚の部分にロゴを貼り付けていないんです」
―― ロゴがキャラクターの演技に伴って歪んだりする?
尾崎 「その可能性がありました。各スポンサーからお預かりしている大切な企業ロゴを、どのようなシチュエーションでも歪みなく表現できる技術的担保がない限りはプレースメントスペースをご提供するわけにはいきません。その点、実物のヒーロースーツなら歪みません。結果、新たなスペースが生まれたというわけです」
―― なるほど。
舞台でも「オリジナル」にこだわった
―― これまでアニメの舞台化は、原作のストーリーに基づくものが多かったように思います。
尾崎 「『ミュージカル テニスの王子様』(テニミュ)は、基本的に原作をなぞっていますよね。ファンの関心も“あのシーンがどの役者にどう演じられるか?”にあるんじゃないでしょうか」
―― 確かに。じつは別の取材でドワンゴの片岡義朗氏(テニミュの生みの親/インタビュー内容は『コンテンツビジネス・デジタルシフト』に収録)にもお話を伺いました。
尾崎 「テニスの王子様は僕も何度か観に行きました。(原作の)追体験というのは、超一級のエンタテインメントですよ。そして何よりテニミュがあったからこそ、アニメ・コミックの舞台化市場がここまで育ったと思ってます」
―― おっしゃる通りですね。
尾崎 「そういったパイオニア、フロンティアを開拓する作品があったればこそ現在のマーケットが存在しています。そして、TIGER & BUNNY THE LIVEがさらにそれを拡げる役割を担わせてもらえるのであれば、本当に幸せですね。
TIGER & BUNNY THE LIVEに関しては、今回は追体験を提供するという判断をしなかったわけですが、テレビシリーズの1話分としても存在可能なオリジナルストーリーをこのために書き下ろしてもらっています。
テレビシリーズや劇場版のシナリオ作りとまったく同じ労力を費やして、何稿も重ねてきた脚本です。『テレビのどこをなぞるんですか?』『どのお話ですか?』って聞かれることが多いのですが、『オリジナルです』と答えるとビックリされることもありますね。
ただ、ファンのなかには、こちら(オリジナル)にもニーズがあるはずなんですよ」
―― 確かに。
尾崎 「今、話しながらわかったんですけど、たまたま僕自身を含むサンライズが、つまり原作サイドがかかわっているから、こんな風に新しいものを作れるわけですよね。原作をお預かりしていたら、原作にないものを作るという判断に至りにくいでしょうし、そうなったとしても簡単にはいかないでしょうから」
―― やるとしても、色々大変ですよね。
尾崎 「原作サイドの監修(チェック)をきっちりと受ける必要がありますし。アニメ放送が原作漫画の展開に追い付いてしまったとき、必要に迫られてオリジナルエピソードを作るというケースもあると思いますが、それはしっかりした信頼関係があればこそですから」
―― お話されていたように、サンライズはオリジナルをずっと手がけてきた、という強みがここでも活かされたわけですね。
尾崎 「そうですね。ナチュラルに、原作者でもあるという立場でもの作りをしてきたので。ですから、その地続きでアニメが舞台に変わっただけで、お話作りだったり、無から有を生み出す方法自体は、変わらないんですよ。
とはいえ、舞台ならばアニメでは難しい表現手段も可能になるわけです。具体的に言うと、どれだけアクションをやってもキャラを思いっきり動かしても、作画枚数が変わらない(笑)。これって素晴らしいことです」
―― 快感ですね。
尾崎 「ね。役者さんの体力が続く限り、アクションできるわけですから」
―― (笑)
尾崎 「そして掛け合いなど、ある程度アドリブの幅も持った脚本にしています。そういった空気感もアニメではあまりないものです。一回一回違うものが提供できるというドキドキ感もある。僕自身、すごく楽しみなんです」
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