また2Dグラフィックスカード側からすると、オーバレイ画面にm3Dのレンダリング出力が重なる形になるが、このあたりの処理がデバイスドライバーによって大きく左右されるのは避けがたかった。一応m3Dは、「組み合わせる2Dグラフィックスカードを選ばない汎用製品」という触れ込みだったが、Matrox以外のグラフィックスカードと組み合わせるとうまく表示されないことがある、神経質な製品となってしまった。
急速に進化する3Dグラフィックスカードの性能改善に、追従できなかったのも失敗の大きな理由のひとつだ。m3DはDirectX 3相当で、OpenGLなどへの対応は良いとは言えない状況だった。この結果、1998年あたりのキラーアプリとなった「Quake」などが、まともに動かないという状況に陥った(解像度を下げてソフトウェアレンダリングで何とかというレベル)。もちろん、その後に登場したDirectX 5以降への対応は、困難と言うよりも不可能に近かった。
これに対してMatroxはどう対処したのか? 「MGA-G200」の完成を待って、あっさりm3Dを見捨ててしまったのだ。冒頭で書いたとおり、Matrox自身のポリシーが「自社のグラフィックチップを使って自社でカードを生産・販売」だから、外部からグラフィックチップを買っているのが、むしろ異常事態だった。m3Dにはワンポイントリリーフ以上の期待はしておらず、むしろG200に積極的に乗り換えてほしいというのが本音であったから、手厚いサポートなど期待できるはずもない。すぐにm3Dは同社の製品ラインの中では「なかったこと」にされてしまった。
製品の構成的に無茶な部分があったのも事実だが、それにも増してMatroxに冷遇されたことで、あっさりと黒歴史に放り込まれてしまった可哀想な製品がMatrox m3Dであった。
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