今回のGPU黒歴史は、Matroxの「m3D」をご紹介したい。これまではGPUというかグラフィックチップが対象であったが、今回はグラフィックスカードそのものである。
2D時代に「Millennium」で一世を風靡
弱点は3DだったMatrox
Matroxという名前は、古くからのPCユーザーならば当然ご存知のメーカーであろう。創業は1976年と古く、1978年には初の製品(ALT-256)をリリースしている。もっとも、これは古の「8080」や「Z80」を使ったマイコンで利用された、「S-100Bus」を搭載したシステム向けだった。PC向け市場に参入したのは、やや遅い1993年のことである。まず「MGA-I」(IS-ATLAS)を搭載した「Matrox Ultima」シリーズを、翌1994年には「MGA-II」(IS-ATHENA/IS-HELENA)を搭載する「Matrox Impression」シリーズを投入する。
これに続いて1995年には、同社の名を一躍有名にした「Matrox Millennium」が登場する。1996年にはMillenniumにRAMDACを内蔵させた低価格版「Matrox Mystique」、1997年にはそれらの後継として「Matrox Millennium II」と「Matrox Mystique 220」が発売された。このMillennium II/Mystique 220は非常によく売れたグラフィックスカードであり、特にMillennium IIはその2D性能の高さもさることながら、搭載されたTI製RAMDACの発色の良さもあって、非常に高い評価を得た。
ただ問題は、Millenniumには2Dのアクセラレーターしか搭載されていなかったことだ。1997年と言えば、3dfxの「Voodoo」が普及し始めており(関連記事)、まもなく「Voodoo 2」の声が聞こえるという時期だ。すでにNVIDIAの「RIVA 128」なども登場していた。これらは2Dに関してはMillennium/Mystiqueの敵ではなかったのだが、逆に3Dに関しては、Matrox製品は遠く及ばなかった。
実を言うと、Matrox Mystiqueは2Dアクセラレーターに加えて、3Dアクセラレーターの機能を搭載していた。ただし、いくつかの重要な機能が欠けていた。例に挙げられるのはバイニリア・フィルタリングだが、ほかにもフォギング/ミップマッピング/トランスペアレンシーなども不足しており、そのためゲームなどを実際に動かした場合、正しく表示されないといったことがしばしば発生した。
そのため、ビジネス用途では引き続きMatroxが大きなシェアを握っていたものの、ゲームユーザー向けには急速に失速し始めた。もちろんMatroxもこの事態を理解しており、欠けている機能を追加するとともにAGPに対応した「MGA-G200」コアの開発も進めていた。だが開発が難航していたため、ショートリリーフとして投入したのが「Matrox m3D」である。
m3Dにも使われた
PowerVRの系譜
Matroxは、自社で開発したグラフィックチップを自社の生産するカードで提供するという、3dfxが「Voodoo 3」で採用したモデルを取っていた(今も継続している)。この原則を崩したのがMatrox m3Dである。m3Dには、Imagination Technologies社(旧VideoLogic)が開発した「PowerVR PCX2」が搭載されていた。少し話はそれるが、このPowerVRシリーズの系譜についても説明しておこう。
VideoLogicはファブレスのグラフィックチップセットベンダーとして、1985年に設立された。設立後はビデオ関連製品をいろいろと手がけていたが、実際にグラフィックチップを開発し始めたのはもう少し遅く、最初の製品である「PowerVR Series 1」に関してNECと契約を結んだのは、1994年のことである。NECはVideoLogicから、PowerVR Series 1と次の「PowerVR Series 2」に関してライセンスを受けて、グラフィックチップを製造した。
これに続く「PowerVR Series 3」は、契約先をSTMicroelectronics社に切り替え、こちらから「STG4xxx」という型番で、製品がリリースされる。2001年頃に市場に登場した「KYRO」や「KYRO II」と呼ばれるチップが、このPowerVR Series 3である。STMicroelectronicsは続いて「PowerVR Series 4」も製造。「STG5xxx」という型番で市場に登場するはずだったが(KYRO 3という名前になる予定)、STMicroelectronicsがグラフィックチップの製造から撤退するという決定を受けて、結局この製品は世に出ていない。
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