放送画質のアニメに生じやすい問題
REGZA Z3/ZP3のアニメモードについて紹介する前に、放送されたアニメコンテンツのどこに問題が生じるかを簡単に説明しておく。
ひと口にアニメと言うが、実は十把一絡に扱うほど単純な話ではなく、どういった問題にどう取り組むかが必要になるからだ。
編註:掲載しているサンプル画像は、テレビ放映時のキャプチャー画像を、説明用に編集部で分かりやすく加工したものです。放映時の画質とは異なりますのでご注意ください。
まず最も分かりやすいのは、地上デジタル放送の低いビットレートによる「画像そのものの劣化」だ。地デジ放送の動画はMPEG-2形式で、解像度は最大1440×1080ドット。ビットレートは最大17Mbpsと決して高いものではない。実際にはこれよりももっと低い品質で放送されているケースも存在する。
例えば、市販のBlu-ray Discは等倍速でも36Mbpsの帯域があり、解像度は最大1920×1080ドット(フルHD)。動画形式もMPEG-4 AVC/H.264が一般的。MPEG-2と比較して半分程度のビットレートでも同程度の画質が実現できるとされている。フォーマット上の制約で、放送品質のアニメが不利になるのは無理もない。
・輪郭部周辺に生じるモスキートノイズ
こうしたビットレートの低さはアニメの場合、線で描いた輪郭の周辺部分やベタ塗りされた領域、各種エフェクトに用いられるグラデーションの品質などに影響する。
JPEG画像などでもそうだが、MPEG系コーデックでは、データサイズを低くするために圧縮率を高めて行くと、チラチラとした画像の荒れが目立つようになる。これが“モスキートノイズ”と呼ばれるもので、平坦に塗りつぶされた色の背景に、黒い線や文字が書かれているようなシーンで顕著。アニメは実写とは異なり、こうした領域が多いので、例えばキャラクターを少しカメラを引いてとらえたシーンの境界部分などでノイズが目立ちやすい。
・縞状に出るバンディング
またグラデーション部分では、縞状のノイズが発生しやすい。これは色の情報が足りないことによって生じる。地上デジタル放送ではRGB各色を8bit(=256段階)で表現するが、逆に言えば256段階以上の細かい階調は表現できない。
放送で用いられるMPEG系のフォーマットでは4:2:0などのように、輝度情報はあっても色差情報を間引いて記録するケースも多い。色の情報が十分にない(あるいはRGB各色の割合が偏る)ことによって、グラデーションが縞状になったり、元データにはない色が出てしまうのがバンディングと呼ばれる現象で、ビットレートの低い地デジのアニメ番組ではよく見かける現象である。
・動きの速いシーンで目立つコーミング
以上はハイビジョンでデジタル制作された最新のアニメでも起こる現象だが、古いセルアニメなど、アナログ制作の作品でよく見かける現象もある。コーミングノイズ、ドット妨害、クロスカラーなどと呼ばれる現象だ。これはアナログ映像をSD品質でデジタル化し、アップコンバートしたうえで放送しているケースなどで発生しやすい。
まずコーミングノイズとは、動きの激しいシーンで、インターレースのフレームがズレることによって生じるギザギザ。アナログテレビなどで用いられていたインターレース方式では、走査線の奇数本目だけを描いたフレームと偶数本目だけを描いたフィールドが1/60秒ごとに切り替わって表示され、毎秒約30コマのフレームを作る。大きく動くシーンでは、この奇数フィールドと偶数フィールドのズレが目立ち、ガタガタしたノイズとして見えてしまうのだ。
・コンポジット由来のノイズ
ドット妨害とクロスカラーは、コンポジット由来のノイズである。アナログ映像の伝送方式では大きく分けて、輝度信号と色信号を合成して一緒に送るコンポジット方式と、それぞれを分けるコンポーネント方式がある。
コンポジット方式の場合、テレビで映像を表示する際には合成された輝度信号と色信号を分離(Y/C分離)する必要がある。地上デジタル放送では、このY/C分離を放送局側で実施してからデジタル化して放送するが、完全な形では分離ができないため、色が急激に変化する場所で点滅が起きたり、輝度が急激に変化する場所で実際にはない色が生じることがある。これがドット妨害やクロスカラーと呼ばれる現象だ。
上記はアニメではなく実写でも起こりうる現象だが、線画をベタ塗りし、かつシーンごとの動きが激しい、アニメでは、実写以上にその影響が分かりやすいという問題がある。